
【排泄動作訓練の実際】理学療法士が語る「夏のトイレリハビリ」の過酷さとやりがい
はじめに|「排泄動作訓練って、実際どうなの?」という声にこたえて
「排泄動作訓練」――この言葉に、どんなイメージを持ちますか?
リハビリの仕事の中でも、華やかさとは無縁かもしれません。でも、患者さんや利用者さんにとっては「トイレで自立できること」は生活の質(QOL)を大きく左右する最重要課題の一つです。
私は理学療法士として18年間、回復期病棟や老健、整形クリニックなどさまざまな現場で排泄動作に関わってきました。とくに夏場は、その支援が過酷さを極めます。
今回は、「夏のトイレリハビリ」の現場のリアルと、介護士・看護師との連携の大切さ、そしてその中で感じるやりがいについて、お伝えします。
排泄動作訓練とは|リハビリ職が関わる意味
排泄動作訓練とは、単に「トイレに連れていく」ことではありません。
ベッドから車椅子に乗り移る
トイレの前で立ち上がる
便座に乗り移る
姿勢を保持する
排泄の意思を伝える
終わった後にお尻を拭く
ズボンを上げ下げする
ナースコールを押す
この一連の動作がすべてできて「排泄の自立」です。
脳卒中後の片麻痺、高齢による筋力低下、認知機能の問題――。
どれか1つでもうまくいかないと、支援が必要になります。私たち理学療法士(PT)や作業療法士(OT)は、動作を細かく観察し、練習し、再び自立を目指すお手伝いをしています。
トイレという「密室」が生む独特の緊張感
トイレは生活の中で最も「密室」であり、かつプライバシーが求められる空間です。
患者さんは羞恥心や焦りを感じやすく、支援する側も声のかけ方や間合いに気を使います。「急がせてはいけない」「でも転倒させてもいけない」。
特に初めての訓練時は、患者さんも私たちも、言葉少なになることが多い。この「沈黙の時間」が、緊張感をさらに増すのです。
夏のトイレリハは「命がけ」? その過酷な現実
そして、これが「夏」となると、話は変わります。
多くの施設や病院では、トイレ内の空調が不十分です。
密室にこもる熱気。汗が滲む制服。動作練習に付き合えばこちらも全身汗だくになります。
特に、新型コロナ感染拡大期には、フェイスシールド・防護服・N95マスク・二重手袋での介助。
トイレでの動作訓練は、「サウナにフル装備で入る」ような感覚でした。
体力的に本当にきつい。それでもやらないわけにはいきません。
それでもやめられない。出たときの「笑顔」と「ありがとう」
私がこの仕事を好きだと思える理由のひとつが、排泄できたあとの患者さんの笑顔です。
「久しぶりに出たよ!」
「ありがとう、助かった」
「自分でできるって、やっぱ気持ちいいね」
こんな言葉をもらえると、さっきまでの汗だくも苦労も吹き飛びます。
人間にとって「排泄の自立」は、尊厳の回復そのものなのだと、改めて実感します。
神様のように見える介護士さん・看護師さんの存在
そして、忘れてはならないのが、介護士さんや看護師さんとの連携です。
2人介助が必要な場面、動作が不安定な場面で、さっと手を差し伸べてくれる。
60歳を超えた介護士さんが、愚痴をこぼさずにてきぱきと動く姿に、何度も救われました。
正直に言います。本当に神様に見えます。
リハビリ職だけでは完結できない排泄支援。
その現場で、同じ方向を向いて動いてくださる介護・看護職の方へのリスペクトは、言葉では言い表せないほど大きいのです。
おわりに|トイレリハにも“物語”がある
排泄動作訓練――それは、患者さんの尊厳を守る戦いであり、支援者の汗と心が詰まったリハビリです。
暑さ、沈黙、焦り、そして喜び。
そのすべてを抱えながら、私たちは今日も「トイレ」へと向かいます。
この現場に関わるすべての方に、心からの敬意と感謝を込めて。
著者プロフィール
熊本市内のリハビリ専門学校を平成19年に卒業。卒業後は鹿児島県の回復期病院に5年間勤務し、急性期退院後の患者様の支援に従事。その後、熊本へ戻り、老健施設や地域密着型病院で約13年間地域リハビリに関わる。第3子の誕生を機に、家族との時間を重視し、日祝休み・残業なしの整形外科クリニックへ転職。転職前は管理職として後輩育成・採用面接・医療安全委員としての活動にも携わる。医療安全管理者の資格を保有し、理学療法士としての強みである動きに着目した転倒予防への安全対策を強みとしている。理学療法士としての経験は18年。現在は3児の父として、家庭と仕事の両立を図りながら働いている。