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短編小説 | ベンチ、ベンチ入り

    開催が近づく甲子園に向けて、

    高校野球連盟に選手資格証明書が届いていた。

    その中で、
    異様な選手が登録されている書類があった。

    初めて甲子園に出場する学校のものだ。

    背番号 20番
    「 名前:ベンチ 」
    「 ポジション:ベンチ 」

    悪ふざけかと思ったが
    健康診断書と、保護者の同意書はある。

    問い合わせても要領を得ず、
    会話がどうにも噛み合わない。

    仕方がないので、
    職員が視察のため出張することになった。

    ー

    学校に到着すると、
    監督が丁寧に応対してくれた。

    「すみませんね、甲子園出場が初めてで
     書類に不備があったということですか?」

    「いえ、書類はちゃんと揃っているのですが
     この背番号20番について質問がありまして」

    「あー、ベンチですか!珍しいか、確かに」

    「外国の生徒さんなんですか?」

    「ベンチは国産ですよ」

    「国産…?
     珍しい名前ですが、苗字は?」

    「連れてきた方が早いですね、おーい!!」

    近くで素振りしていた生徒が、
    部室にバットとヘルメットを置きに行った。

    そしてパイプ椅子を抱えて駆け寄ってきた。

    「優しいですね、椅子を用意してくれるなんて」

    「いやいや、コイツがベンチなんです」

    「あなたがベンチ君」

    「いいえ、ぼくは高橋です」

    「えっ?」

    「実はですね、ベンチはパイプ椅子なんです」

    「意味がわかりませんが
     この生徒さんが背番号20番ですか?」

    「いえ、ソイツは背番号21番です」

    「パイプ椅子にレギュラー争いで負けたのかい?」

    「はい!オレはベンチに負けました!
     でもチームにはベンチが必要なんです!」

    「なんでパイプ椅子がベンチなんですか?」

    「座れるので」

    「パイプでいいでしょ」

    「今更呼び方を変えたら、ベンチが戸惑います」

    「ベンチ君は野球ができるんですか?」

    「高野連さん!何を馬鹿なことを
     椅子のベンチが野球できるわけないでしょ」

    「ですよね」

    「でも!ベンチはすげーんだぜ高野連さん!」

    「まあ聞きましょう」

    「1日も欠かさず練習に参加したんだ!」

    「置いてありますからね」

    「暑くても寒くても一言も文句言わない!」

    「椅子は喋らないですからね」

    「雨の日でもグラウンドにいたんだぜ!」

    「ちゃんと片付けないとダメですよ」

    「高野連さん、確かにコイツは走れない」

    「椅子ですからね」

    「打てない、守れない、投げられない」

    「椅子ですからね」

    「でも、私たちを支えてくれたんだ」

    「椅子ですからね」

    「というわけでベンチはうちの20番なんです」

    「わかりました」

    「高野連さん!ベンチの何を調べに来たの?」

    「保護者の同意書と健康診断書についてです」
    「これは誰が?」

    「あー、ベンチの保護者さんは提出が早かったな」

    「やっぱり!
     いつも練習試合まで見に来ますもんね!」

    「誰なんですか」

    「健康診断書はワシじゃよ」

    「校長先生!」

    「もともと医者だったからのう」

    「ベンチ君はパイプ椅子ですが」

    「ワシはこの野球部を心から信頼しておる」
    「彼らが認めたのなら、大丈夫じゃ」

    「マトモな人はいないんですか?」

    「一番マトモなのはベンチの保護者さんだな
     あの人は他の保護者さんも仕切ってくれるし」

    「誰よりもチームの勝利を願ってますよね!」

    「だから誰なんですか」

    「あ、監督!もうすぐミーティングの時間です!」

    「すまない高野連さん、
     私たちそろそろ戻らないと」

    「明日から
     甲子園に向けて1週間の合宿なんです!」

    「そうでしたか、ベンチ君も参加するんですか?」

    「もちろんです」
    「なんなら、ベンチの保護者が発案したんですよ」

    「ベンチも保護者さんも、
     無口だけど熱いですよね!」

    「そうですか」

    「それでは高野連さん、我々は失礼します」

    「わかりました
     ……最後に、ひとつだけよろしいですか?」

    「ええ、どうぞ」

    「ベンチ君の保護者って、
     誰なんですか!!!!!!!」


    完


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