
エッセイ 📓 サボテン倶楽部の話
オレは過去に、
関東の大型シェアハウスに1年間住んでいた。
今回はその時の話だ。
はじめに言っておくが、長くなる。
ー
ROMANCE DAWN
オレがシェアハウスに住み始めて、
半年ほど経った頃。
シェアハウスの入居者専用アプリに
クラブ活動機能が追加された。
そのシェアハウスを運営している会社は
関東にいくつもシェアハウスを構えていた。
どれも50人〜100人くらいの規模。
オレが住んでいたシェアハウスは
その中でも大型の部類だった。
クラブ活動機能は要するに、
全シェアハウスが
様々な目的で繋がれる機能だった。
例えば、
「一緒に映像制作しませんか?」とか
「サウナ部」とか
「映画好きと語り合いたい」とか
そんなものだ。
サービスの提供開始から数日で、
多いコミュニティは50人を超えていた。
交流も活発だった。
クラブはサムネイルや説明文などが設定でき、
オマケのような機能にしては充実していた。
オレは思った。
これはいい機能だと。
しかし同時に、
他のクラブ活動には不満があった。
クラブ活動のサムネイルはどれもダサかった。
活動内容を説明する文章も読みにくかった。
オレは思った。
イケてるサムネで、
読みやすい文章の説明文なら
最大の人数になれるのではないかと。
そして組織した。
「サボテン倶楽部」を。
オレは当時サボテンを持っていなかった。
実体のないクラブで頂点を目指す。
世はまさに大海賊時代。
志だけ高くて
何も持たないルフィが
どうでもいい夢に向けて出航したのである。
ー
船長の命を狙うロロノア・ゾロ
オレはまず、
一番信頼していたゆうとを仲間に勧誘した。
コイツは常にけだるげだった。
しかし頭のキレるやつだった。
暴走しがちなオレと対極で、
常にバランス感覚のあるブレーキ役だった。
オレはゆうとに
サボテン倶楽部に入るよう詰め寄った。
「は?やだよ」
ゆうとはオレを軽くあしらった。
オレはわかっていた。
彼は幼馴染と大剣豪になる約束をしている。
簡単になびくことはないと。
その意思の固さこそ、
我らの副船長に必要だった。
オレは何度もゆうとを誘った。
ゆうとは断るのに疲れたようで、折れた。
クラブ活動にはコメント欄がある。
オレは入部の証として
コメントするように言った。
ゆうとはコメントを書いていた。
ずっと悩み、
書き直し、
推敲し、
また書き直した。
オレが待つのに飽きてスマブラしてると、
ゆうとは「投稿しといたよ」と言って
いつも通り、けだるげに自室へ戻った。
どれどれ、
オレはコメントを読んだ。
サボテン等の観葉植物には、
害虫発生の可能性があります。
適切な世話には多くの時間を要します。
私は推奨しません。
というようなことが書かれていた。
1人目、ゾロは
オレを殺すために一味に加わったのだ。
ー
航海士ナミ、仲間入りを拒否
シェアハウスにはオレの彼女がいた。
こーすけである。
彼はオレが風邪を引いた時に
オムライスとサラダを作ってくれて
オレの彼女に認定された男である。
彼はインテリアやデザインへの
造詣が深かった。
部屋はオシャレでサボテンもあった。
当時、シェアハウス内で
唯一サボテンをちゃんと飼育していた。
彼こそが我らを正しい方向に導く航海士だった。
オレはこーすけをサボテン倶楽部に勧誘した。
「ひーくん、ごめん意味がわからない」
彼は入部を断った。
オレは何度も誘ったが、彼は戸惑うばかり。
結局、最後まで入部することはなかった。
この世界のナミは
ベルメールさんが存命だった。
帰るべき場所のあるナミに、
航海へ出る理由はなかったのだ。
ー
ちびっ子ウソップ海賊団
それからオレは
シェアハウスの歳下組に声をかけた。
たくみ、こーいち、モジである。
彼らはオレのことを慕ってくれていた。
つまり少しアホだった。
いわばウソップ海賊団である。
ゆうとやこーすけと違い、
彼らは即答でサボテン倶楽部へ入部した。
やはり少しアホだった。
ー
スモーカー大佐、一味入り
オレはシェアハウスの兄貴分、
たかしに喫煙所で入団を願い出た。
イケてるバイクで
あっちこっちを旅する男の中の男である。
たかしは話を聞いても
なんのこっちゃよくわからん
という感じだった。
「入部してもらえますか?」と聞くと
「おう!」と言って入部してくれた。
ー
無垢な少女、ビビ
シェアハウスには
あかりんという
最年少のかわいい女の子がいた。
オレはあかりんをサボテン倶楽部に勧誘した。
たまたま大広間にいた
けいすけとしゅんぴが話に割って入った。
2人とも、
いつも馬鹿騒ぎに参加する
楽しいやつらだった。
しかし、
「サボテン倶楽部だけはやめておけ」
とあかりんに言った。
つまり、ヨサクとジョニーである。
オレは後日、
電車移動のどさくさで
あかりんをサボテン倶楽部に引き入れた。
ー
ミス・オールデーサンデー
シェアハウスには
みんなのお姉さんがいた。
くみねえである。
オレのクリエイティブの同志だった。
かつては
激務のデザイン業だったが
仕事は一旦お休みしており、
毎日のんびりと生活していた。
最初にサボテン倶楽部に誘った時は
懐疑的な反応で断られてしまった。
しかし二度目の勧誘では
「いいよー」と即入部した。
なんでだよ。
ー
ゴッド・クリス
シェアハウスには外国人がいた。
クリスである。
彼は日本のアニメが好きで
日本語がペラペラだった。
一緒にボードゲーム屋さんに行ったり、
温泉に行ったり、
よくわからんけどオレと仲がよかった。
オレはサボテン倶楽部への入部を迫った。
「え?なに?よくわからない、いいよ」
クリスは全てを納得し、
宿命を受け入れて我らの一味に加わった。
ー
ほらな、折れた
他にも何人も誘った。
顔と名前を知っているやつは全員勧誘した。
他に何人か入部したやつもいた。
それ以上に多くの住人から断られた。
部員が増えるたび、
コミュニティでコメントしてもらった。
「サボテンいいですよね!」
「サボテンって食べれるらしいですよ」
「お世話が少なくて済む
社会人に最適な植物ですよね!」
「私もいつかサボテン欲しいです!」
どれもいい感じに浅くて中身がなかった。
誰もサボテンを飼育してなかったからだ。
他のコミュニティは
色々なシェアハウスの住人が入り乱れていた。
我らサボテン倶楽部は9割が
同じ物件の住人だった。
なぜならオレが足で稼いでいたからだ。
元々の目的の、
イケてるサムネと
見やすい説明文で頂点へ
という旗はとっくに折られていた。
まあ良かった。
だんだん人数が増えていくのが楽しかった。
ー
グランドライン前半に現れたカイドウ
問題は、次のやつだった。
しょーたである。
彼は普段自室にいたが、
たまーに大広間に降りてきていた。
テレビゲームやボードゲームを用意して
割れんばかりに場を盛り上げたあと、
なんでもなかったように部屋へ戻って行った。
そんな彼は、
共有キッチンで皿を洗っていた。
オレは彼に説明した。
サボテン倶楽部に入部して、
一言コメントして欲しいと。
しょーたは
「あー、OKっす」
と言って静かに部屋に戻った。
その5分後、
以下のようなコメントが
コミュニティに投稿された。
ー
さぼてん、いいですよねー!
オレいつも帰り道に寄ってます。
駅前とかにあるのが嬉しいですよね。
なんたって、
「とんかつ新宿さぼてん」は、
1966年12月1日に東京・西新宿に誕生したとんかつ専門店である。創業者は田沼文蔵。当時、新宿では副都心計画が進められており、田沼は将来性のあるこの街に自社レストランを構えることを決断。小田急百貨店地下名店街に1号店を開いた。現在の運営母体であるグリーンハウスフーズにとっても、この店舗が外食事業の出発点となった。
「さぼてん」という少し変わった名前は、田沼夫妻がレストラン進出の準備として海外研修でメキシコを訪れたことに由来する。現地で、わずかな水でもたくましく生きるサボテンを目にし、「どんな環境でも力強く成長し、末永く親しまれる存在になりたい」という願いを込めて命名した。ロゴもサボテンの一種「金鯱」をモチーフとしている。
その後、店舗数を増やして全国へ進出。1972年には運営会社として「株式会社さぼてん」が設立され、1982年に「株式会社グリーンハウスフーズ」へ社名変更した。現在も「さぼてん」は同社を代表するブランドとして位置づけられている。
大きな転機となったのが1987年である。それまでのレストラン中心の展開から、神奈川県のラスカ平塚に初のデリカ店舗を出店した。女性の社会進出などを背景に「夕食を買って帰る」という需要が拡大すると予測し、「レストランの味をご家庭で」を掲げて、店頭調理したとんかつを持ち帰れる業態へ進出した。当時まだ「中食」という市場が現在ほど一般化していなかった時期の展開だった。
このデリカ事業が急成長を支え、1995年には100店舗、翌1996年には200店舗へ到達。さらに2001年には海外1号店を出店し、その後はアジアを中心に海外展開も進めた。現在ではレストランだけでなく、駅ビルや百貨店などのデリカ店舗、海外店舗、オンライン販売など複数の販売経路を持つブランドへ発展している。
また、現在では定番となった「すり胡麻とソースでとんかつを食べる」スタイルも、さぼてんが発祥としている。とんかつが揚がるまで客自身に胡麻をすって待ってもらうという創業者のアイデアだった。
つまり、さぼてんの約60年は、単にとんかつ店を増やした歴史ではない。新宿のレストラン → 全国展開 → 中食への進出 → 海外展開 → 多チャネル化と、食生活や社会の変化に合わせて「とんかつを食べる場所と方法」そのものを拡張してきた歴史と見ると分かりやすい。
ー
オレは頭を抱えた。
オレたちはいままで
東の海から少しずつ力をつけてきた。
アラバスタで少女時代のビビを攫い、
ニコ・ロビンに翻弄され、
ゴッド・エネルを打ち倒した。
次は、ウォーター・セブンだと思っていた。
いきなりカイドウが現れたのである。
植物のサボテンでなく、とんかつのさぼてん。
この先、誰が何をコメントしても
この盛り上がりに勝つことはできない。
オレはサボテン倶楽部への勧誘を止めた。
ー
夢の果て
ある夜、
以上の話をモジにした。
大航海時代の始まりから、
カイドウの登場まで。
話の途中、
オレは何度もモジに聞いた。
「ついてこれてるか?」と。
モジは、
「ギリっす!」
「なんか見えてきました!」
「オレ、わかったかもっす!」
とだんだん理解を示したようだった。
横で聞いていたひろきという男は
「ひーくん、いい精神科を紹介しようか?」
と心配そうにしていた。
ー
受け継がれる意志
その後、オレには色々あった。
本当に精神病院のお世話になって、
シェアハウスから引越しすることになった。
しばらくして
引越し先の実家に、郵便物が届いた。
シェアハウスのみんなからの寄せ書きだった。
みんな思い思いに
オレへの感謝や思い出を書いてくれていた。
ひとつ、
目に留まったメッセージがあった。

『 実態のないまま存続 』
サボテン倶楽部の核となる精神は、
しっかりと継承されたようだった。
完
🦆💬 ガァ
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