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右椎骨動脈解離 #2 「クリニックへ行く①」

    「これは、私が『椎骨動脈解離』で生死の境を彷徨った時の記録である」


    【実録】頭痛レベル9.5。意識が混濁する中で、私は違う病院に辿り着いた。


    第二部 病院へ


    5月7日 5:30


    (あ、これ、ほんとにヤバいやつだ……)

    頭を下げれば猛烈な痛みが来る。頭痛レベル8.5。

    (病院に行かなきゃな……)

    前日にさおりんが作っておいたカレーを温めて食卓に並べる。

    息子は「病院に行ってきて」と半分キレ気味で言ってくる。

    「そうだな」としか言い返せない。



    でも今日は、連休明けなうえ、今日締め切りの調査物をどうしても提出しなければならない。

    同僚に託せばいいのだろうが、最近とても冷ややかというか、心無いというか、まあミスが続いていたせいで関係は良くない。

    昔から、人の空気には敏感だった。ちょっとした温度差も、すぐ察してしまう。

    思い過ごしではない。

    猛烈に感じ、察してしまうのだ。


    食事は何とかできる。でも首を回すと激痛が来る。

    カレーが旨いとか不味いとか、そんな感覚は全くない。

    とにかく痛いのだ。
    「右側頭部」と「こめかみ」と「眼球の裏から後頭部にかけて」が

    頭の中の見えない敵が、
    波状攻撃を仕掛けてくるようだった。


    そして、食後の歯磨き。
    朝一の歯磨きよりツラい。

    下を向けない。

    身体を棒状にしなければ激痛に耐えられない。

    スクワットをしながら、正面を向き、そのまま吐き出す。
    服を汚さないように。

    なかなか高等テクニックだ。至難の業だった。


    現状は、頭痛レベル9。会話もしたくない。


    さあ行くか。

    田舎のため、職場までは車で行かなければならない。

    (運転できっかな……)

    周囲の確認もままならない。
    まともな運転なんて到底無理な状態だった。

    道路の凸凹や段差のたびに、激痛が走る。

    そのたびに、自分のHP(ヘルスポイント)が削られていくのが分かった。

    駐車場に停めることもできない。



    5月7日 7:15

    職場の構内に路駐をする。早朝だから大丈夫だろう。


    ようやく扉を開ける。

    時計の針が止まっているんじゃないかと思うほど、時間が進まない。一分一秒が、まるで一時間のように長く感じられる。


    パソコンを開く。

    パスワードの入力さえままならない。


    しかも、連休明けで頭が回らない。

    若干の吐き気さえ感じる。

    (早く提出物を出して病院へ行こう)


    よし、なんとか書類は送れた。

    同僚と係長にそれぞれ書置きをする。この具合が悪いという時に。字も汚い。まともに力が入らない。あとのことをよろしく頼み、車に乗った。

    ふらふらする。

    歩くのもままならない。

    (頼む。病院まで何とか無事に着いてくれ…)



    5月7日 7:45

    病院は前日に調べていた市内でも有名な街一番の脳外科。道路はまだそんなに混んではいなかった。距離は5キロほどだろうか。長い。というかまだ着かないのか、という心情。救急車を呼んでも全然来てくれないときの感覚に近い。

    意識が遠のく。

    景色がコマ送りのように流れる。

    信号。

    角。

    どうやって曲がったのか、記憶がない。

    たった5キロ。
    なのに、果てしない砂漠を横断しているような絶望が襲う。



    5月7日 8:00

    あ、ようやく着いた。

    なんとか無事に着いた。

    ん? なんだか病院名が違う……気がする……。

    え? なんで?  確かにさっき看板を見たはずだ。街一番の脳外科って書いてあったはずだ。なのに、目の前にあるのは違う脳外科の病院。

    嘘だろ。

    狐につままれたような感覚。
    世界が歪んでいる。


    でも、もう一歩も動けない。

    思考が、バラバラに砕けていく。

    もういい。
    どこでもいい。
    ここがどこだっていい。

    助けてくれ……。

    もうHPが尽きそうなのだ。

    頭痛レベル9.5。

    まだ上がある気がして、
    0.5だけ余白を残した。

    後に知ることになるが、
    本来向かうはずだった街一番の脳外科は新築移転していた。

    あの時見た看板は、
    何だったのだろう。

    当時の自分には、
    それを判断する余力すら残っていなかった……

    「すみません。頭が猛烈に痛いんです」
    と受付のお姉さんに告げ、
    マイナンバーをスキャンした。

    「じゃあこちらに記入してください」と問診票を渡される。

    (下を向けないんだって!もう助けてって言ってるじゃんかよー)と、残り僅かなHPで心の中で独り言を言う。

    字もまともに書けねえ。
    ボールペンも力が入らない。
    内容は何書いてあるか理解しようともできない。

    まあここで倒れたら誰か助けてくれるだろう。
    そう思って書いた。

    「すみません。字汚いですけど書きました」と告げ椅子に座った。

    もうほとんどHPは残っていない。

    脈を打つたび、
    視界が赤く脈打つように感じる。

    頭痛レベルは9.5だ。

    壁に頭をつけて固定しなければだめだ。


    助けてくれ……  ううぅ


    次回、診断結果。

    それは予想もしない病名だった…


    【時系列】
    5月3日  大好きな仲間たちと
         カラオケに行く。  

    5月4日  二日酔いだと思われる。
         激しい側頭部の痛みと
         眼球から後頭部への
         刺さるような痛みが来る。

    5月5日  いまだ三日酔いだと思われる。
         頭痛レベル5

    5月6日朝 ユビーで検索。
         救急へ行けとのこと。
         頭痛レベル6

    5月6日昼 頭痛レベル7

    5月6日夜 頭痛レベル8

    5月7日 5:30 頭痛レベル8.5

    5月7日 7:15 仕事へ行く。頭痛レベル9

    5月7日 7:45 クリニックへ行く。
           頭痛レベル9

    5月7日 8:00 クリニックに到着。
           頭痛レベル9.5

    5月7日 8:30 クリニックで受診。
           頭痛レベル9.5


    椎骨動脈解離の体験記はこちら

    私は椎骨動脈解離で2ヶ月の療養を経験しました。発症から診断、入院、療養までの記録をシリーズとして残しています。
    もし今、
    身体からのサインに戸惑っている方がいたら、
    こちらも参考になるかもしれません。


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