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【風まかせ文芸部】『黄金の焼き芋』【日常】

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    ようこそ、皆さま! セイウチです。

    ​波打ち際で拾い集めるメッセージの中には、時折、クスッと笑えてお腹が鳴り出すような「甘い密会」の記録が混ざっていることがあります。

    今夜のボトルを開けると、香ばしい湯気と一緒に、なんだか楽しげな悪巧みの声が聞こえてきました。

    ――どうぞ、今日の潮風に揺られながら味わう「黄金の闇取引」、しばしお付き合いください。

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    ​夜の八時半。
    リビングの照明をわざわざ落とし、間接照明ひとつにした薄暗い部屋で、パパと娘の「密会」が始まった。

    ​「お代官様、今夜も格別な品を仕入れてまいりました……」

    ​パパが揉み手(もみて)をしながら、重々しく差し出したのは小さな紙箱。
    小5の娘は、時代劇の悪代官よろしくフッと不敵な笑みを浮かべた。

    ​「ほう……越後屋、面(おもて)を上げよ。して、中身は何じゃ?」

    ​パパが恭しく箱のフタを開けると、そこには丁寧に皮が剥かれ、湯気を立てながら黄金色に輝くねっとりとした焼き芋が鎮座していた。

    ​「おお……! これは見事な小判……いや、焼き芋じゃな!」

    ​「へへっ、蜜たっぷりの安納芋にございます。お代官様、これで何卒よしなに……」

    ​二人はヒソヒソ声で悪徳商人と悪代官になりきり、怪しい笑みを交わし合った。

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    ​悪代官ごっこは次第に熱を帯びていく。

    ​「待てよ越後屋。小判が一枚とは、ちと誠意が足りぬのではないか?」

    ​「これはいけませんお代官様! では、さらに『山吹色の極上品』をお納めいたします!」

    ​パパはキッチンからアルミホイルで包まれた二本目の焼き芋をうやうやしく運んできた。
    娘は「ふははは! おぬしも悪よのう!」とテンションが上がり、扇子代わりの団扇(うちわ)で胸を叩く。

    ​「よし、この小判の価値を検分いたす!」

    ​娘はフォークを十手に立てかけるように構え、黄金色の身を削ぎ取って口へ運んだ。

    ​「んん〜っ! あま〜い! 越後屋、余は満足じゃ! 賄賂の受け取りを許可する!」
    ​「ありがたき幸せ! では、ワタクシめも小判の分け前を……」

    ​二人は完全に役に入り込み、闇取引の臨場感を出すために「ハッハッハ!」「イヒヒヒ!」と、忍び笑いのボリュームをどんどん上げていってしまった。

    ​
    ​「――で、その小判はどこから出てきたのかしら?」

    ​パチッ。

    ​容赦ない眩しい光とともに、リビングの天井照明が一斉に点灯した。
    仁王立ちしていたのは、腕組みをしたママだった。

    ​「ひっ……! 越後屋、お、追っ手(おかっぴき)じゃ……!」

    「お代官様、もう逃げられませぬ……!」と、パパもブルブルと震えながら追随した。」

    ​二人は正座になり、焼き芋のフォークを握りしめたまま固まる。

    ​「パパ、今週の健康診断の数値、覚えてる? それに、歯磨きはもう済んだって言わなかった?」

    ​ママの冷ややかな視線と静かなお説教が二人に突き刺さる。
    万事休すかと思われたその時、ふっと甘い香りが部屋に漂った。
    ママの鼻がピクッと動く。

    ​「……すごく美味しそうな匂いね」

    ​ママはため息をつくと、キッチンから自分用のフォークを一本持ってきて、二人の間に腰を下ろした。

    ​「半分こじゃなくて、三等分ね。あと、食べた後は二人とも念入りに歯磨きすること。いいわね?」

    ​「「は、はいっ!」」

    ​「……ふむ。越後屋、このお方の賄賂も受け取らざるを得まいな」
    「へい、お代官様。三分割された小判もまた格別でございます」

    ​ママも呆れ顔で笑いながら焼き芋を口に運び、怪しい闇取引の現場は、家族三人のおいしい夜食タイムへと早変わりしたのだった。

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    ​

    (了)
    ※この物語はフィクションです。
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    最後まで読んでいただきありがとうございます❗😭✨

    夜の静けさと、美味しい焼き芋の甘い香りが漂ってくるような一コマを書いてみました。

    ​子どもの頃、夜遅くに親とこっそり食べるおやつって、どうしてあんなにも背徳的で特別に美味しかったのでしょうか。

    大人になってから振り返ると、そんな「ちょっとした秘密の共犯関係」こそが、家族のかけがえのない思い出だったりします。

    ​厳しく見えて実はちゃっかり参加しちゃうママも含めて、このあと三人でどんなおしゃべりに花を咲かせたのか……。

    読者の皆様の脳内でも、温かい続きが広がっていたら嬉しいです。

    【i】さん今回も素敵な企画をありがとうございます❗✨


    毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿しています!


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    寄せては返す波打ち際で、流れ着いたボトルメッセージを拾い集めるセイウチです。 ​ここに並ぶショートショートや日記は、すべて海が運んできた「誰かの漂流物」。 いつかあなたの心に届く言葉が見つかりますように。 ゆっくりしていってください。

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