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【アマノ文筆クラブ】『魔女刈り』【コメディ】


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    ようこそ、皆さま!セイウチです。

    波打ち際に流れ着いたガラス瓶、その中には丸めた紙切れが入っていました。

    どうやらどこかの世界の、ちょっと困った日常の記録みたいです。

    コーヒーでも淹れて、ゆったり読んでみてくださいね。

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    赤い花弁が、風にそよいで可憐に揺れていた。

    ​「綺麗な花だねぇ」

    ​散歩中の老人が足を止め、感嘆の息を漏らす。
    その視線の先にあるのは、別名「魔女の髪」と呼ばれる寄生植物――ストライガ。

    ​かつて大規模な「魔女狩り」が行われた際、処刑場で焼き払われた魔女たちの遺灰が風に乗って世界中に飛び散り、それが土に根づき黒くしなやかな髪のような蔓(つる)を伸ばすようになったのだという。
    魔女の髪は他の動植物に絡みつき、その命をじわじわと吸い尽くしながら、皮肉なほど美しく魅力的な花を咲かせる。
    美しい見た目に騙されて近づいた鳥や小動物が、そのまま骨にされるのも珍しくない。

    ​「じいさん、離れな。髪が足元まで伸びてるぞ」

    ​声をかけたのは、作業着に身を包んだ男――アルトだ。
    彼は背中に背負った草刈り機……ではなく、銀色に光る特殊な大鎌を慣れた手つきで構えた。

    ​アルトの職業は「魔女刈り」。
    街の景観と住民の命を守るため、はびこる魔女の髪を刈り取って回る、いわば街の清掃員のような仕事だ。

    ​ザクッ、と重い音が響く。

    ​銀の鎌が振るわれるたび、魔女の髪は黒い液汁を撒き散らしながら絶叫のような擦れ音を立ててちぎれ飛ぶ。
    アルトは手際よく刈り取った「髪」をまとめ、専用の耐火麻袋へと詰め込んでいくと、汗を拭いながら深いため息をついた。

    ​「……で、これどうすんの?」

    ​回収車に戻ると、荷台にはパンパンに膨らんだ麻袋が山積みになっていた。
    同僚のボブが、車に寄りかかって缶コーヒーを飲んでいる。

    ​「どうするって、本部に運ぶしかないだろ」
    「無理。本部の裏の保管庫、先週で満杯になった。課長が『これ以上持ってきたらお前らの給料から保管料引くぞ』ってキレてた」

    ​2人は顔を見合わせ、同時に重いため息をついた。

    この仕事最大の問題は、「刈り取った後の廃棄方法が未だに確立されていない」ことだった。

    ​なにせ元が魔女の遺灰だ。
    燃やせば灰が飛散して被害が全国に広がり、埋めれば土の中で地脈のエネルギーを吸って怪獣サイズに巨大化する。
    薬品で溶かせばバイオハザード、海に捨てれば新種の怪異が発生する。

    ​「なぁ、他所の部署はなんて言ってるんだよ」
    「環境課に回したら『生態系への影響が未検証だから受け取れん』。危機管理課は『実害が出るまではただの雑草だから管轄外』。で、清掃事業課に持っていったら『分類不能の超危険不燃ゴミです』だってさ」
    「完璧なタライ回しだな。お役所仕事の鑑かよ」

    ​ボブが吐き捨てるように言った。

    ​「いっそのこと、隣の市との境界線スレスレに不法投棄してくるか?」
    「バカ言え。あっちの連中、先週うちの敷地に『魔女の髪』をこっそり投げ込んできて大喧嘩になったばっかりだぞ。これ以上やったら戦争になる」
    「じゃあ宇宙に打ち上げるか?ロケットで」
    「そんな予算があるなら俺たちの危険手当を増やせってんだ。第一、宇宙で繁殖して『彗星魔女』とかになって戻ってきたら誰が責任取るんだよ」
    「じゃあ火山の火口にポイだ」
    「噴火した瞬間、全国に魔女の髪が豪雨みたいに降り注いで世界滅亡だろ。映画の観すぎだ」

    ​不毛な議論を交わしている間にも、荷台の麻袋の中では刈り取られたはずの髪がゴソゴソとうごめき、縫い目から小さな赤い花弁がひょこっと顔を出す。
    「……殺す……呪ってやる……」と呪詛の声を漏らしながら、健気に可憐な花を咲かせようとしている。

    ​「ハァ……昔の勇者だか審問官だかもさぁ。狩るのは結構だけど、処分方法のガイドラインくらい作ってから燃やしてくれよな」
    アルトが空を仰ぎ、しみじみと呟く。
    「ほんとそれ。後始末の計画がないプロジェクトほどタチの悪いもんはないね」
    ボブも缶コーヒーを飲み干し、深くうなずいた。

    ​今日も今日とて、街の平和を守る清掃員たちは、処理のしようがない「超有害・自我持ち・不滅ゴミ」の山を抱えたまま、あてもなくトラックを走らせるのだった。



    (了)
    ※この物語はフィクションです。
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    最後まで読んでいただきありがとうございます!


    「世界を救う勇者や審問官も素晴らしいけれど、その後の後始末をする現場の人は一番大変なのでは……?」というふとした疑問から生まれたお話です。

    プロジェクトや大掃除は、始める時よりも捨て方に一番頭を悩ませますよね。

    少しでもクスッとしていただけたなら幸いです。


    【甘野 充】さん本当に素敵な企画ありがとうございます!



    毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!


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    現在連載中❗『世界でいちばん遠回りな呪いの殺し方』 〜10年かけて俺を殺すはずの黒羽さんが、婚姻届を出してくるまで〜
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    寄せては返す波打ち際で、流れ着いたボトルメッセージを拾い集めるセイウチです。 ​ここに並ぶショートショートや日記は、すべて海が運んできた「誰かの漂流物」。 いつかあなたの心に届く言葉が見つかりますように。 ゆっくりしていってください。

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