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【アマノ文筆クラブ】『色眼鏡』【サスペンス】

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    ようこそ、皆さま!

    本日も波打ち際に、誰かの心が詰まった新しいボトルが流れ着きました。

    淹れたてのコーヒーでも飲みながら、一緒に中身を覗いてみませんか?

    ​今回拾ったのは、人間の「本性」にまつわる、少し皮肉な漂流記のようです――。


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    ある日、差出人不明の小包が届いた。

    心当たりは一切ない。
    だが、宛名ラベルには間違いなく俺の名前と住所が印字されていた。
    不審に思いながらもテープを剥がすと、中から出てきたのは古びた黒縁の眼鏡と、一枚の紙きれだった。

    ​『色眼鏡――人の本性が見える眼鏡』

    ​取説らしき紙には、そんな大層な見出しが躍っていた。
    どうやらこの眼鏡をかけると、人の本質が“色”となって視覚化されるらしい。
    ただし、文末には赤字でこう強調されていた。

    ​『※注意:絶対に自分自身を覗き込まないでください』

    ​「ははっ、なんだそりゃ。オカルトのジョークグッズか?」

    ​連日の猛暑の中、日課のように死んだ目で部屋の天井を眺めて過ごしていた俺だ。
    くだらないと切り捨てるには、あまりにも退屈すぎた。
    俺は暇つぶし半分、呆れ半分で眼鏡を耳にかけ、外へと足を踏み出した。
    ​
    ◇

    ​結論から言えば、その眼鏡は「本物」だった。
    ​路地裏を曲がり、駅前の交差点に立った瞬間、俺は息をのんだ。
    世界が、毒々しい原色で塗りつぶされていたのだ。
    ​向かいから歩いてくる厚化粧の派手な女。
    一目見た瞬間、俺の脳裏には「どうせ男の金で着飾ってる性悪女だろ」という確信が浮かぶ。

    ーーすると、どうだ。

    眼鏡越しの彼女は、ドロリとした品のない『ショッキングピンク』に染まって見えた。
    ​次に、公園のベンチでヘラヘラと笑い合う若者グループ。

    「若さにまかせて愚行を撒き散らす不快な害虫ども」

    と吐き捨てた瞬間、彼らは不気味な『ギラついた蛍光イエロー』に発光した。
    ​なるほど、素晴らしい。
    俺の見立ては完全に正しかったのだ。
    世の中の人間どもは、俺が日頃から見下し、蔑んでいた通りの醜悪な本性を持っている。
    この眼鏡は、それらを一切の偽りなく暴き出してくれる至高のアイテムだった。

    ​(やっぱりそうだ。見た目が軽薄なやつは、性根も下品なピンク色だ)

    (あいつらは頭が空っぽだから、安っぽい黄色なんだ)

    ​己の洞察力の正しさが証明されていく。
    それが可笑しくて、痛快で、俺は街を歩きながら何度も吹き出しそうになった。

    ​「最高だ……! みんな思っていた通りのバカで愚か者じゃないか!」

    ​存分に他人を嘲笑し、絶対的な優越感に浸った俺は、ニタニタと笑みを浮かべたまま自宅へと戻った。
    ​

    ◇

    ​自室の机の上に眼鏡を置き、じっと見つめる。
    脳裏をよぎったのは、あの取説の最後の文章だった。

    ​『絶対に自分自身を覗き込まないでください』

    ​見るなと言われれば、見たくなるのが人の性だ。
    だが、なぜ警告されているのかも察しがついた。
    これだけ他人の醜悪な本性を暴いてきたのだ。
    冷徹に世の中を俯瞰し、愚民どもをあざ笑う俺自身の本性を見たら……きっと、正気を保てないほど重厚で、知性にあふれた凄まじい色が見えてしまうからに違いない。

    ​「深みのある漆黒か、それとも冷徹な蒼か……」

    ​胸をワクワクと躍らせながら、俺は再び眼鏡を装着した。
    洗面所へ向かい、パッと電気をつける。姿見の鏡の前に立ち、ゆっくりと顔を上げた。

    ​そこに映っていたのは――

    ​何の色もついていない、ただの「無色透明」な姿だった。
    ​鮮やかなピンクも、不快な黄色も、重厚な黒や蒼すらない。
    ただ、どこにでもいる、髪の薄くなったくたびれ顔の中年男性。
    色とりどりの本性を撒き散らす街の人間たちとは違い、何のオーラも、色彩も持たない男がそこに立っていた。

    ​「……え?」

    ​他人の本性があれほど鮮明に見えるというのに、自分には見せるべき「本性」すら存在しない。
    冷徹な観察者を気取っていた自分には、誇れるような個性も、嫉妬するほどの毒すらもなく、ただの空虚しか存在していなかったのだ。
    ​鏡の中の無色で平凡な男が、ぎこちなくひきつった笑顔のまま、凍りついたように突っ立っていた。


    ​(了)

    ※この物語はフィクションです。
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    最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

    ​前回、【甘野 充】さんの企画お題「デジタルタトゥーを消したい」に続いて、今回も参加させていただきました!

    ​今回のお題は「色眼鏡」だったのですが、なかなかアイデアがひらめかず「今回は難しいかな…」と思っていました。
    ですが、脳内の小さな引き出しをひっくり返して、なんとか創意工夫して作り上げました!

    ​また素敵な企画があれば、ぜひ参加させていただきたいです。

    今後ともよろしくお願いいたします!m(_ _)m


    毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!

    気に入った方は是非スキやフォロー、シェアしてもらえると嬉しいです。


    ↓甘野 充さんのリンク↓


    ↓前回の企画お題「デジタルタトゥーを消したい」


    ↓私の自己紹介↓


    ↓今までの #アマノ文筆クラブ 企画参加 作品集


    現在連載中❗『世界でいちばん遠回りな呪いの殺し方』 〜10年かけて俺を殺すはずの黒羽さんが、婚姻届を出してくるまで〜
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    寄せては返す波打ち際で、流れ着いたボトルメッセージを拾い集めるセイウチです。 ​ここに並ぶショートショートや日記は、すべて海が運んできた「誰かの漂流物」。 いつかあなたの心に届く言葉が見つかりますように。 ゆっくりしていってください。

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