
しののめの とける朝

ウォーキングに出かけると、
今年はじめての、あの匂いがする。
東雲に金木犀の香り。
鼻をできるだけ大きく膨らませ、
胸いっぱいに吸い込んでやる。
吐く息がもったいない、
吐く時は、なるべく短めにする。
私は欲張りで、けちん坊である。
暑過ぎず、寒すぎず、
秋は静かに深まりつつある。
二十四節気、寒露の季節。
露凝んで霜にならんとするゆゑ゙、
寒露と名づく
『改正月令博物筌』より
月の雫がおり、冷えて霜となる。
令和の秋は、どうだろうか、
朝露が凍るのかどうか…。
それは、まだ先のことになりそうだ。

中国の伝説に、
月には大きな金木犀(桂花)があって、
中秋の名月の頃になると花が咲き、
その花明りで月が照らされるという
美しいお話がある。
最近ウォーキングを又はじめた。
朝焼けに浮かぶお月さまを見つけて、
いっしょに歩いたりする。
今朝は、三日月。
金木犀か…と見上げてみるが、
どうも ピンとこない。
しばらくすると、東雲が美しいので、
立ち止まり、ぼーっとしていると、
蜜のような日が昇り融け出すように
街を明るくしていった。
金木犀の花の色に似た朝日に、
もしかすると、と思った。
こっちじゃない?
お月さまに咲いた花の香りが、
東雲に、朝日に融けて香るのかもね。
それから私は、馴染みの金木犀を
見に行くことにした。
近くまで来たが、あの匂いがしない。
まだ咲いていないのだろうかと、
金木犀のある家まで来て、驚いた。
金木犀はなかった、
それに、家は空き家になっていて、
さっぱりとしている。
不思議なのは、今はなき金木犀の香が
漂うような気がした。
馴染みの金木犀は立派な木だったから、
木魂の残り香がするのかもしれない。
帰りの道は寂しかった。
お別れが突然すぎたから。
秋ってこんな感じのところがある。
澄んだ風も、冴える月も、
ひと雨ごとに冷たくなって、
すべてを連れ去ってしまう。
そして冬が訪れて新たになる。
あらたになるというのは、
決まって別れのあとだ。
こんな切ない思いを、
秋寂びというのか。
馴染みの金木犀は、
今頃、月へと辿り着いただろうか。
来年の今頃は、月を見上げよう。
あなたは伝説になったんだよね…。
