
胞子 萌芽 ー挿絵ー
先々週も5鉢、先週も5鉢、今週も5鉢購入した。
週末が来るたび、5鉢ずつ増える。
ビカクシダ、ビバリウム、アジアンタム、リュウメンシダ……
ポトスやサンスベリアなどの観葉植物も時々混ざるが、
シダ類が殆どを占める。彼はシダ類の植物が好きらしい。
今週末の外出には、自然と植物ショップも組み込まれていた。
熱帯を模した湿った温室の中、所狭しと並べられた植物を見て回る。
息を吸うたび、湿気が鼻奥を重くする。
熱に浮かされたように、熱心に植物を探す彼の後を追いながら歩く。
私は、これまで別段植物に興味も無かった人の熱狂に興醒めしていた。
ーーそういえば、きみも植物が好きだったな。
自室を温室のようにし、所狭しと植物を並べた緑溢れる部屋だった。
彼が私に話しかけてくる。
水やりの頻度とか、日当たりの事とか。
彼の声にきみの低い声が重なって聞こえてきた。
あ、これは。
きみは 居なくなった のではないんだ。
入れ物がなくなってしまっただけなんだ。
入れ物がなくなった きみは ばらばらに解け胞子になった。
何年かかけて、胞子は育ちいま萌芽に至り、
水やりとか、日当たりとかを気にしているのだ。
彼は今日も植物に水をやり、日当たりの良い場所を探して移動している。
きみはどんどんと茂り、蒸せるように温まった部屋の真ん中に広がっている。
胞子を飛ばし続ける。
近頃、家族の趣味が変わった、味覚が変わった。
よく考えてみると、それらはきみが好んでいたものばかりだし、
つい先日会った友人の、優しい瞳の奥にもきみを見たのだ。
育ち始めたきみは喜ばしいのと同時に、逃れられない呪いのようだ。
家族が、猫の名を呼ぶ、〇〇と。
その懐かしい響きにはっとする。
きみの飼っていた、犬の名と同じだ。
〇〇、と呼んでみる。
猫がにゃあと返事をする。
この、私の入れ物は誰だったかな。
名前があった気がする。
まあ、いいか。
耳の奥からきみの名が聞こえる。
はい、と返事をする。
肉厚な、ビカクシダの葉を撫でる。
空気中に広がる無数の胞子が、私を呼ぶように舞っている。

胞子、萌芽
この短編は数ヶ月前に書き、投稿したものだ。
書き終わり一旦満足していたはずだか、私はきみのことが忘れられない。
ひと目、きみの姿が見たくなったから絵を書いた。
居なくなった誰かが、胞子になって世界に戻ってくる。
植物を増やし、趣味を変え、家族や友人の中に少しずつ芽吹いていく。
私の首から上は植物になったが、私の腕の中にはまだ猫が居て、
手はかろうじて人間のままだ。
手が自由に使えるうちに、短編の続編と絵を描き続けたい。
何のためかは分からない。
ただ、根付いてしまった胞子が、そうさせるのだと思う。