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びーまいべいべい 第1話『べい』


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    第1話『べい』

    午前十時。

    大阪の繁華街から少し外れた路地。

    黒いPCXに腰掛けた2号は、スマホを見ながら欠伸をしていた。

    オンライン。

    しかし案件は取らない。

    いわゆる地蔵である。

    「お前またサボっとるんか」

    聞き慣れた声が飛んできた。

    振り返るまでもない。

    グレーのNMAXに跨ったラビ爺だった。

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    「サボっとるんちゃうで。地蔵や」

    「同じや」

    ラビ爺は即答した。

    「もう昼ピやぞ。働けて」

    「めんどくさい」

    「働け」

    「断る」

    「働け言うとるやろ」

    「断る言うとるやろ」

    小学生みたいなやり取りがしばらく続いた。

    ラビ爺は呆れたように煙草を取り出した。

    「お前なぁ。毎日そんなことしとったら稼げんぞ」

    「別にええやん」

    「よくないわ」

    「俺が本気出したら二万くらいすぐ稼げるんよ」

    「ほな出せや」

    「まだ早い」

    「なんやねんお前」

    ラビ爺が頭を抱えた。

    2号はケラケラ笑う。

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    昼ピークになると、二人はそれぞれの配達へ散っていった。

    ◇

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    夜。

    稼働を終えた2号は、コンビニの駐車場でスマホを開いた。

    本日の結果。

    38件。

    17,100円。

    「まあ、こんなとこやな」

    本人は満足そうに頷く。

    そしてTwitterを開いた。

    『38件17100円。ふー、しんど』

    数秒後には、配達員仲間から反応が付き始めた。

    『お疲れさまです!』

    『今日鳴らんかったー』

    『ようやっとる』

    そんな中。

    ラビ爺からの通知が目に入った。

    『これは素人』

    「なんやこいつ」

    思わず笑う。

    『素人いうやつが素人なんよ』

    そう返すと、すぐに返信が来る。

    『朝から真面目にやっとる人間の数字ちゃう』

    『効率や』

    『怠け者の言い訳や』

    『歳食うと説教臭くなるんか?』

    そんな中。

    見慣れない通知が一つ混ざっていた。

    『べい さんが返信しました』

    「ん?」

    開く。

    次の瞬間。

    2号の動きが止まった。

    「うおっ」

    思わず声が出た。

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    そこには若い女性の写真。

    しかも水着だった。

    『すごーい!

     お疲れさまでした♪』

    「なんやこれ」

    思わず周囲を見回す。

    誰もいない。

    もう一度見る。

    可愛い。

    かなり可愛い。

    「なんやこれ」

    二回言った。

    とりあえず返信した。

    『ぺっぴんさんやな』

    送信。

    数秒後。

    返信が来る。

    『えへへー♪』

    早い。

    なんか距離感も近い。

    2号は少し笑った。

    しかし同時に、別のことも気になった。

    プロフィールを開く。

    若い女の子。

    顔写真。

    しかも複数。

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    「これ大丈夫かいな」

    少し考えた後、DMを送った。

    『なあ』

    『はい?』

    『顔写真こんな出して平気なん?』

    既読。

    数秒。

    『あんまり平気じゃないですか?』

    『いや知らんけど』

    『えっ』

    『変なやついっぱいおるで』

    返信が止まった。

    少し言い過ぎたかと思った頃。

    『じゃあ消した方がいい?』

    と返ってきた。

    2号は少し悩んだ。

    正直。

    もったいない。

    かなりもったいない。

    写真は可愛い。

    非常にもったいない。

    だが。

    『SNSには残さん方がええと思うで』

    そう送った。

    すぐに返事が来た。

    『にごさんが言うなら消すー』

    「素直やな」

    思わず笑う。

    そして続けて送る。

    『でも』

    『?』

    『消す前に保存しとくわ』

    数秒。

    既読。

    さらに数秒。

    『最低(笑)』

    スマホを見ながら、2号は吹き出した。

    その夜。

    二人は深夜まで、どうでもいい話を続けた。

    配達のこと。

    大阪のこと。

    好きな食べ物のこと。

    気付けば、日付が変わっていた。

    2号はスマホを置く。

    そして何気なく思った。

    ――面白い子やな。

    その夜、二人のどうでもいい話は、なかなか終わらなかった。



    あとがき

    ついに始まりました、『ろること2号』大阪編――『びーまいべいべい』。

    本作は、2号の過去を掘り下げる作品として書き始めました。

    実はこの作品のプロット自体はかなり前からあって、きっかけは『ろること2号』の投稿についた、とあるリプライでした。

    「にごちゃんの顔知ってる私からするとイメージ違って全然話入ってこないんだけど(笑)」

    ――べい。

    大阪時代の彼女……ではなく、配達仲間です(笑)。

    数少ない、実際に僕と会ったことのある配達員の一人でもあります。

    そんな彼女のリプライを見て、冗談半分で「大阪時代の彼女として出してあげようか?」と返したんですが、その時ふと、

    「あ、これ本当に大阪時代の彼女にしたら面白いんじゃないか?」

    と思ったんです。

    そして最初に思いついたのが、もちろんタイトル。

    『びーまいべいべい』。

    めちゃくちゃ良い。

    もう、これはべいの話を書くしかないなと。

    もちろん、その時点では本人の許可なんて取っていません(笑)。

    ちなみに『びーまいべいべい』というタイトルは、キュウソネコカミの『米米米米(たぶん「べいまいべいべい」)』から着想を得ています。

    実際、べいにもよくこの曲を送っていました(笑)。

    ただ、この作品は本当なら『ろること2号』本編でもう少し二人の仲が進展して、ラビ爺が登場する頃に公開しようと思っていたんです。

    ところが、ここ最近『ろること2号』の新作を立て続けに公開していたこともあって、

    「あ、そろそろ出さないと」

    と思い、急遽公開することになりました(笑)。

    ……ということは、そろそろラビ爺が本編に現れるかもしれません。

    そして、第1話で描かれた2号とべいの出会い。

    実はあれ、ほとんど僕とべいの実話です(笑)。

    僕がXに配達の結果を投稿したところ、いきなり水着写真付きのリプライが飛んできました。

    「なんやこれ」

    まさに2号と同じ反応でした(笑)。

    そのあとDMで「水着写真なんて載せて大丈夫なん?」と送って、べいが写真を消す流れも、そのまま実話です。

    そして、それをきっかけに仲良くなったのも劇中と同じ。

    ……ただ、一つだけ大きく違う点があります。

    実際のべいにはパートナーがいます。

    なんやねん!

    パートナーがおるのに水着写真なんて送って来るなや!

    ろるさんにしろ、べいにしろ、なんで俺の周りはパートナー持ちばっかりなんだ(笑)。

    まあ、冗談はさておき。

    べいと僕は親子ほど年齢が離れています。実際、娘とも歳が近いんですよね。

    だから、僕の中ではどちらかというと娘みたいな存在です。

    ……とはいえ、そんな彼女が、まさか数年後に2号の人生を大きく変えるヒロインになるとは、この時はまだ誰も知りませんでした。


    ※本作はフィクションです。

    登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

     
     

    2号

     
     
    『配達員ろること2号』連載中。配達あるあるとちょっとのドラマ、読んでってね。

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