
ハンドルカバーから
あれは保育園の送迎に自転車を使い始めた初年度の出来事。
電動自転車を買い、色々と周辺装備も揃えていたのだが、冬になって大問題が。
手が寒い。
手袋を買おうかと考えたのだけど、手袋を家の内外でなくす、毎朝装着するのが面倒になるという事態が容易に想像できてしまったので、ハンドルカバーを買うことにした。
関西のオバチャンがよくつけているアレである。
夫は「ミラクルダセー」と嫌がっていたけど、「文句があるなら送り迎えしろってんだ、てやんでい!」と完全に無視して購入した。
ハンドルカバーは私の予想通りすごく良かった。
内側にボアがついていて、素手でもズボッと手を突っ込めば暖かい。
手袋みたいに着け外しも要らない。
確かに「ミラクルダセー」けど、保育園の送迎の間だけだし、ダサさに目を瞑れば最高だった。
―あの日までは―
そのXデーの帰宅途中、信号待ちで停止→信号が変わって動き出す時に、ハンドルを握る手が滑って前にズレた。
ズレた先で、私の指に異物がヒットした。
かなり恐怖だった。
指先の感触から、そこそこ大きい虫がいるのではないかと思ったのだ。
軽くパニックになった私は、それでも平静を装った声で「ちょっと自転車停めるね〜」と息子に声をかけ、歩道で自転車を停めた。
何がいるか確かめなくてはならない。
もはや、「箱の中身は何でしょねクイズ」みたいになっている。
しかも多分ハンドルカバーの中身は虫。
最悪である。
息子はカブトムシやクワガタを見つけても、「ぼくはアリンコとダンゴムシしかさわれない!!!」ってキレるぐらい虫嫌い。
もし飛ぶ虫で、息子の方に向かっていったら……🫨
パニックで暴れてしまうと危ないので、息子を自転車から降ろし、ハンドルカバーに手を突っ込むために気合を入れる。
この時ほど手袋にすればよかったと思った瞬間はなかった。
手袋があれば素手で触らなくていいのにと本末転倒なことを思いつつ、こわごわ手を突っ込む。
中から出てきたのは肉だった。
肉と言っても生肉ではなく、コンビニなんかで売ってる串に刺さった調理済みのお肉。
しかも一欠片だけじゃなく、複数出てくる。
時間が経っているのか、ややカピカピしているけど、なんならちょっと焼肉のタレみたいないい匂いがする。
あと、これは後から思ったけど、串が外されてるあたり、なんとなく怪我には配慮した感があってモヤる。
拍子抜けもいいところでポカンとしてしまったのだが、その後に猛烈に湧いてくる怒り。
駅の駐輪場(しかも地下)に停めてある自転車のハンドルカバーに、わざわざ食べ残しの肉を突っ込むってどういう了見じゃワレェ💢
そのお肉、歩道に投げ捨てるわけにもいかず、誰の食べ残しかわからない肉を持って帰って捨てなければならない不条理にも腹が立つ。
漫☆画太郎の漫画に出てくるみたいなオッサンのヨダレ付きの肉だったら最悪だなと嫌な想像をしながら、収まらない怒りを抱えて、若干タレが(もしかしたら漫☆画太郎おじさんのヨダレも……?)ついているだろう嫌な感じのハンドルカバーに手を突っ込んで帰宅した。
その後、帰宅した夫に一部始終を話した。
「え、肉?」
「肉って言った?」
「肉がハンドルカバーから出てきたの?」
3回ぐらい聞き返されたあと、夫は腹を抱えて笑い出した。
こっちは誰が入れたかも分からない肉を持って帰ってきたというのに。
今でもこの話をすると夫は笑う。
何なら息子まで「あり得ねー」って笑う。
私はまだちょっと腹が立つ。
なんで肉やねん。