
本屋の形而上学/或る読書家の思索
白状すると私は本屋に通わない日はない。本屋には毎日立ち寄り、時にはそこに亡霊の様に佇む人々を観察したり、私自身も亡霊化する。
私は本屋が好きだ。物心ついた時には漫画を求めて、時には小難しい心理学の本を求めて彷徨ったものである。
それが転じてか、古本屋界隈にも彷徨う様になり、神保町を徘徊するのは日課である。

本屋は本を買い求める人間にとって、ただの買う場所ではない。形而上的に考えてみても、本という物質に触れ、言葉と邂逅する霊場であり、神聖な領域だとも言える。
本が集積された独特の空間は新刊、古書問わず、紙の匂いが音連れる者を天界にも地獄にも誘う異国の香りなのである。
ボードレールの詩を引こう。

異国の薫り
暖かい秋の夕べ、両方の目をとじて、
君のほてった胸の匂いをかげば、
単調な陽が まばゆく光っている
たのしい岸辺 ひろびろと目に浮かぶ。
本屋に並ぶ一冊の書籍。
書籍には全宇宙が内包されている。
又、その全宇宙を内包している書籍を内包している本屋もまた全宇宙に内包されている。
本屋を巡る旅。
これからも私は永遠に彷徨い続けるだろう。
最後に・・・
そんな永遠不滅の書籍に封じ込められたヴァレリーの一節を置いて置く。

「書物は人間と同じ敵を持つ。火、湿気、害虫、時間、又それ自身の内容」
書物にもそれなりに敵が多いとのこと。