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「長靴を抱いた猫」


     猫は長靴が大好きでした。
     雨の日に履いて汚したくなくて、長靴を抱きしめて歩くほどでした。
     絵を描くのが好きだった猫は、キャンバスに長靴の絵を描きました。
     雨の日も、晴れの日も、猫は長靴を抱きしめました。長靴を描きました。

     猫はすっかり大人になり、今では長靴を抱きしめることもなく、くたびれた革靴を履いて一日中営業で走り回っています。炎天下の中でも、雪の降る日でも、とても仕事なんて取れる見込みがなさそうな会社にも上司の命令で出向きます。
    「前年よりも売り上げアップを」上層部からの至上命令が猫を突き動かすのです。命令通り、毎年毎年売り上げを増やしていっても、終わることはありませんでした。苦労して仕事を取ってくると、現場の方々からの突き上げにあいました。
    「こんなに仕事量を増やしやがって! どれだけ残業させるつもりだ! 何人の従業員を壊すつもりだ!」
     しかし猫は仕事を取ってくるのが職務でした。現場を回すのは現場の担当者の仕事でした。目が血走り、やせ細り、現場の人間はめまぐるしく変わっていきました。他の会社に行く人や、ある日突然出社してこなくなった人、現場で倒れて起き上がらなかった人など、様々でした。

     猫はのんびり穏やかに長靴を抱いたり描いたりしていた日々のことを思い出すこともありました。しかし夜中にくたびれて帰ってくると、せっかくの休日も昼まで寝てしまうのでした。遊びたい盛りの子どもがいるのに、その相手をする体力も残っていないのでした。猫の子どもは、幼い頃の猫と同じように、絵を描くことが好きな子でした。

     三ヵ月ぶりの休日に、猫は昼まで寝ていました。目を覚ました猫は、素晴らしい出来の絵を見ることになります。猫の子が、くたびれた革靴を精緻な水彩画で描いていたのでした。くたびれた様子が、猫そのものを現しているようでした。
    「いつの間にこんなに絵が上手くなっていたんだ」まだ幼い我が子の成長に、猫は驚きました。
    「お父さん、私もう中学生だよ」と子猫は言いました。最後に幼い娘と遊んでから、十年の月日が流れていました。


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    ドロベ・ゴロウ。二児の父。脳脊髄液減少症。何かしら書いてます。旧名「名無しさ」「村野」「楢山孝介」「新都社モラトリアム新書」「山下チンイツ」など。「みんなのフォトギャラリー」で画像を使用していただいた記事にスキをつけることがあります。見知らぬ人からのスキだと怖がらないでください。

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