
ミリアの日々 ゴリラって、なんだか優しい顔をしている。― 9月24日「世界ゴリラの日」―
「ねえ、ゴリラって見たことある?」
朝。
陽菜が、スマートフォンを見ながら突然そんなことを言った。
「動物園でなら」
「実物、大きいよね」
「大きいね」
「怖くない?」
ミリアは少し考えた。
「……ちょっと怖い」
「やっぱり?」
「だって、あの筋肉だよ?」
二人で笑った。
でも。
そのあとミリアは、スマートフォンの画面に映っているゴリラの写真を眺めた。
大きな身体。
太い腕。
力強い肩。
そして。
思っていたよりもずっと穏やかな目。
「……なんか」
「うん?」
「優しい顔してるね」
今日は「世界ゴリラの日」
9月24日は「世界ゴリラの日」。
2017年にダイアン・フォッシー・国際ゴリラ財団によって制定された記念日で、ゴリラの保全と、生息地である森林を守ることを広く知ってもらうことが目的とされています。(千葉市ホームページ)
日本の動物園でも、この日に合わせてゴリラについて学ぶイベントが行われています。
2026年も、上野動物園や京都市動物園、東山動植物園などで、ゴリラの生態や保全について考える企画が予定されています。(京都市動物園)
「世界ゴリラの日」
そう聞くと。
最初はちょっと不思議な記念日に感じる。
でも。
調べてみると。
ただ「ゴリラってすごいね」と言うための日ではない。
ゴリラが暮らす森。
そこにいるたくさんの動物や植物。
そして。
その森と人間の暮らし。
そういうものまで考える日なのだと分かる。
「じゃあ、見に行こう」
陽菜が言った。
「どこへ?」
「動物園」
「今日?」
「今日」
「急だね」
「だって今日はゴリラの日だから」
ミリアは笑った。
「理由が強引」
「記念日って、そういうものじゃない?」
確かに。
何かを知るきっかけなんて。
案外そんなものかもしれない。
「今日はゴリラの日らしい」
それだけで。
普段なら検索しなかった動物を調べる。
普段なら行かなかった場所へ行く。
そして。
知らなかったことを一つ知る。
それだけでも。
記念日には意味があるのかもしれない。
動物園のゴリラ
動物園。
ゴリラの展示の前。
二人は少し離れたところから眺めていた。
「……大きい」
陽菜が呟く。
「写真より大きく見える」
ゴリラがゆっくり歩く。
木の枝に手を伸ばす。
座る。
周囲を見渡す。
そして。
しばらくすると。
またゆっくり動き始める。
「なんか、のんびりしてるね」
「うん」
二人はしばらく黙って見ていた。
最初は。
「大きい」
「怖そう」
そんな話をしていた。
でも。
しばらく見ていると。
少し印象が変わってくる。
力強い身体なのに。
動きは意外と穏やか。
そして。
こちらを見ている目が。
なんとも言えない。
「ねえ、ミリア」
「なに?」
「ゴリラって、ずっと怒ってるわけじゃないんだね」
「当たり前でしょ」
「でも、イメージって怖いよね」
ミリアは頷いた。
人間も。
動物も。
写真や映像だけで見るのと。
実際に動いている姿を見るのとでは。
ずいぶん印象が違う。
ゴリラにも家族がいる
ゴリラは群れで暮らすことが知られている。
成獣のオスを中心に、メスや子どもたちが暮らす。
動物園でも。
群れの中で生まれた子どもが、周囲のゴリラたちに見守られながら育つ姿が紹介されています。(東京動物園)
「人間と似てるね」
陽菜が言った。
「家族で暮らすところ?」
「うん」
子どもがいて。
大人がいて。
一緒に暮らして。
互いに関わりながら成長していく。
もちろん。
人間とゴリラは違う。
暮らし方も。
身体も。
言葉も違う。
でも。
「家族」というものを眺めていると。
どこか親しみを感じる瞬間がある。
「子どもって、どこの世界でも子どもなのかな」
陽菜が言った。
「どういう意味?」
「なんとなく」
ミリアは笑った。
ゴリラの森
帰り道。
二人はゴリラについて調べていた。
野生のゴリラが暮らしているのは。
アフリカの森林。
その森が失われれば。
ゴリラが生きていく場所も失われる。
だから。
ゴリラを守るということは。
ゴリラだけを守ることではない。
その動物が暮らしている森を守ることでもある。
そして。
森には。
ゴリラ以外にも。
たくさんの生き物がいる。
木があり。
植物があり。
昆虫がいて。
鳥がいて。
さまざまな動物がいる。
一つの森の中に。
たくさんの命がつながっている。
「森って、大きな家みたいだね」
陽菜が言った。
「家?」
「ゴリラだけの家じゃなくて、みんなの家」
ミリアは少し考えた。
「……いい表現かも」
スマートフォンとゴリラ
そこで。
ミリアは少し気になる話を見つけた。
過去には。
スマートフォンなどに使われるレアメタルの採掘と、ゴリラの生息地の問題を結びつけて考える動物園の企画も行われている。(東京動物園)
「え?」
ミリアは自分のスマートフォンを見る。
毎日使っている。
ニュースを見る。
写真を撮る。
友達と連絡する。
地図を見る。
こうしてゴリラについて調べることだってできる。
その便利な道具が。
遠い場所にある森と。
まったく無関係だとは限らない。
「世界って、つながってるんだね」
陽菜が言った。
「うん」
「動物園でゴリラを見て」
「スマホで調べて」
「そのスマホのことまで考える」
「なんか、すごいね」
ミリアは笑った。
記念日というのは。
こうやって。
一つのことから。
別のことへ。
考えを広げていく日なのかもしれない。
「ゴリラの日って、ゴリラを見るだけじゃないんだ」
夕方。
動物園を出る。
空が少し赤くなっている。
まだ暑さは残っているけれど。
風には秋の気配がある。
「今日、ゴリラを見に来てよかった」
陽菜が言った。
「うん」
「最初は、ただ大きい動物だと思ってた」
「私も」
「でも、家族がいて」
「森で暮らしていて」
「その森を守ることも大事で」
「人間の生活とも、どこかでつながっている」
ミリアは頷いた。
「知るって、面白いね」
「うん」
最初は。
「ゴリラって大きいね」
それだけだった。
でも。
一日調べて。
実際に見て。
少し考えて。
帰る頃には。
ゴリラという動物が。
少しだけ身近になっていた。
強いだけじゃない
帰宅してから。
ミリアは今日撮った写真を眺めていた。
大きな身体。
長い腕。
落ち着いた表情。
そして。
群れの中で暮らす姿。
「ゴリラって……」
ミリアが呟く。
「ん?」
陽菜が聞く。
「強いだけじゃないんだね」
「うん」
「人間だってそうか」
「急に人間の話?」
「強そうに見える人でも、いろいろあるじゃない」
陽菜は少し笑った。
「ミリア、今日はゴリラから人生を学んだね」
「大げさ」
「でも、分かる気がする」
外見だけでは。
分からないことがある。
大きい。
強そう。
怖そう。
そういう印象だけで。
相手を決めつけてしまうことがある。
でも。
少し近くで見て。
少し知って。
少し時間をかける。
すると。
最初とは違う姿が見えてくる。
動物でも。
人間でも。
もしかしたら。
同じなのかもしれない。
世界ゴリラの日に
9月24日。
世界ゴリラの日。
この日は。
ゴリラの魅力を知る日であると同時に。
彼らが暮らす森林や。
その未来について考える日でもある。(千葉市ホームページ)
大きなことは。
すぐにはできない。
遠いアフリカの森を。
自分で守りに行くこともできない。
でも。
知ることはできる。
ゴリラのことを調べる。
生息地のことを知る。
動物園で観察する。
保全活動について知る。
そして。
自分が普段使っているものが。
世界のどこかとどうつながっているのか。
少し考えてみる。
それだけでも。
何かの始まりにはなる。
夜。
ミリアは。
今日撮ったゴリラの写真をもう一度見る。
「ねえ、陽菜」
「なに?」
「来年もゴリラ見に行こうか」
「いいね」
「今度はもっとゆっくり見たい」
「うん」
「あと、ちゃんと勉強してから」
「珍しく真面目」
「世界ゴリラの日だから」
陽菜が笑う。
「じゃあ、来年はゴリラ博士だね」
「それは無理」
二人で笑う。
窓の外では。
秋の夜が静かに深まっていく。
今日まで。
知らなかったこと。
知らなかった動物。
知らなかった森。
知らなかったつながり。
世界には。
まだまだ知らないことがたくさんある。
だから。
記念日という小さなきっかけを。
大切にしたい。
「今日は、ゴリラの日なんだ」
そこから始まって。
一匹のゴリラを見る。
その家族を知る。
その森を知る。
そして。
自分たちの暮らしまで考えてみる。
そんなふうに。
世界は。
少しずつ広がっていく。
ミリアはスマートフォンを置いた。
「おやすみ」
「おやすみ」
明日になれば。
また普通の日。
でも。
今日知ったことは。
きっと残る。
大きな身体と。
穏やかな目。
森の中で暮らす。
たくさんの命。
そして。
それを守ろうとしている人たち。
9月24日。
世界ゴリラの日。
ゴリラを知ることは。
もしかしたら。
私たちが暮らしている、この世界そのものを知ることなのかもしれない。
そんなことを。
二人で話した夜だった。
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