
月9ドラマ 爬虫類の全て 第四話
第4話「宇宙で絡まる尻尾 ~無重力のキスは誰のもの~」
ついに、イグアナ太郎たちを乗せた初号機「コールドブラッド・ワン」は、大気圏を突破した。
シンガポールの極秘テストサイトから打ち上げられたその瞬間、地上ではヤモリ健が発射台の壁面に張りつきながら叫ぶ。
「兄貴ぃ! ついに行っちまったな!
地球の重力なんかに、冷血の恋は止められねえってことかよ!」
宇宙へ向かう機内には、イグアナ太郎、美咲、麗香、そしてなぜか当然のようにカメ博士まで乗り込んでいた。
狭い船内。窓の外には、少しずつ小さくなっていく地球。
太郎は腕を組み、静かにその青さを見つめていた。
「地球は青いな……だが、俺の心はまだ答えを出せていない」
その言葉に、美咲の体色が淡いピンクから不安の青へと変わる。
一方で、麗香は無重力の中をしなやかに漂いながら、妖しく微笑んでいた。
「重力がないって素敵ね。
地上では隠していた本能まで、全部浮かび上がるもの」


しかしその直後、船内に警報音が鳴り響いた。
麗香が密かに持ち込んでいた「毒の推進剤」が、宇宙空間の低重力環境で異常反応を起こしたのだ。
赤い警告灯が点滅し、酸素濃度が不安定に揺れ始める。
「慌てるな……宇宙も恋も、焦った者から軌道を外れる……」
カメ博士は相変わらず意味が深いようで浅いようなことを言いながら、ゆっくり計器を見つめる。
だが、事態はすでにカメの速度では追いつかないレベルで進行していた。
次の瞬間、無重力でバランスを崩した太郎、美咲、麗香の尻尾が、ぐるぐると複雑に絡まり始める。
「ちょ、ちょっと! 誰の尻尾がどこに絡まってるの!?」
「ふふ……こういうの、嫌いじゃないでしょう?」
「計算不能だ……!」
三人は機内の中央で、もはや恋愛なのか事故なのか分からない“巨大な感情の結び目”みたいな状態になっていた。

その頃、地上ではワニ次郎が巨大企業「クロコダイル・インダストリー」の管制室で高笑いしていた。
巨大スクリーンには、宇宙を進む「コールドブラッド・ワン」の姿。
次郎は高級スーツの襟を立て、赤ワインのような色の照明を浴びながら、満足そうに口角を上げる。
「宇宙に逃げたところで終わりだと思うなよ、太郎!
俺はもう、宇宙ビジネスにも参入済みだ!」
なんと次郎は、極秘に打ち上げていたライバル衛星「クロコ・ムーン1号」を使い、太郎たちの通信を妨害していたのだ。
「地上でも負け、会社でも負け、宇宙でも負けろ!
それがお前にふさわしい末路だ!」
船内の通信は乱れ、機体は徐々に軌道を外れていく。
美咲の体色は涙色の青、麗香はなぜか興奮したような深紅、そして太郎は危機の中なのに少しだけ黄金っぽい変な色気をまとい始めていた。

その時だった。
地上から、奇跡的にヤモリ健の通信が入る。

壁を登るだけの男だと思われていた彼は、なぜか独学で宇宙工学をかじっていた。
「兄貴! 右に3度だ!
尻尾を使って姿勢制御しろ! 爬虫類なめんな!」
「尻尾で……姿勢制御……?」
「できる。わしらはそのために長い尻尾を与えられたのかもしれん……」
カメ博士が深くうなずいたことで、全員が「たぶんそうなんだろう」と納得してしまう。
そして太郎を中心に、美咲と麗香が左右に展開。
三人は絡まった尻尾を逆に利用し、奇跡の連携で機体のバランスを立て直していく。
「今よ、太郎さん!」
「離さないで……!」
「言われなくても離せない!」
無茶苦茶だった。
だが、その無茶苦茶が、なぜか宇宙では正解だった。
機体は大きく揺れたあと、ようやく安定軌道へ戻る。
その先に見えてきたのは、月の裏側近くに浮かぶ人工観測ステーションだった。

観測ステーションへのドッキング後、束の間の静けさが訪れる。
地球を一望できる観測ドームで、太郎と美咲は二人きりになった。
巨大なガラスの向こうには、青く光る地球。
無重力の中で、美咲の体色はこれまでで最も鮮やかな虹色に輝いていた。
「太郎さん、地球にいた時は怖かった。
麗香さんも、次郎も、会社も、未来も。
でも今は分かるの。私、あなたとなら宇宙でも色を変えていける」
太郎は少しだけ視線を伏せる。
「美咲……お前の色は、俺の計算をいつも狂わせる。
だが今は、それが嫌じゃない」
二人の距離が少しずつ縮まる。
指先が触れ、吐息が混ざり、ついに唇が触れそうになった――その瞬間。
「だめよ、太郎さん。宇宙で最初のキスは、もっと伝説的じゃないと」
麗香が、ガラス越しにぬるりと現れた。
しかもなぜか、宇宙服を半分脱ぎかけている。
空気の読めなさと色気の暴力である。

だがその甘い空気は、爆発音によって粉砕される。
観測ドーム全体が激しく揺れた。
ワニ次郎の衛星「クロコ・ムーン1号」が暴走し、ステーションへ突っ込んできたのだ。
スピーカーから、聞き慣れた腹立たしい声が響く。
「太郎ぉぉぉ!
地球でも宇宙でも、主役はこの俺だぁぁぁ!!」
太郎は静かに振り返り、ネクタイを締め直した。
「なら決着をつけよう。
地球の上司でも、宇宙の敵でもない。
お前はただの、空気の読めないワニだ」
美咲は虹色のまま息をのみ、麗香は不敵に微笑む。
カメ博士はなぜか月面勤務制度の可能性について小声で語っている。
太郎は非常用ハッチへ歩き出した。
無重力の中を、まっすぐに。
その背中は、もはやただのイグアナではない。
宇宙で恋と因縁を背負った、冷血の主人公そのものだった。

ナレーション(コブラの渋い声)
「冷血の恋は、ついに重力を失った。
次回、第5話『月面上場 ~君はもう、株主なんだ~』
恋も経営も、月では酸素不足……お楽しみに!」