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美容医療の尻ぬぐいは誰が負担するのか

    m3.comの意識調査で、開業医51.6%、勤務医55.4%が「美容医療機関の副作用対応は適切でない」と回答した。医師の過半数が不適切と答える領域。それだけで異常さが伝わる。

    後始末の現場

    自由診療で起きた合併症は、原則として保険診療の対象外だ。法的にはそうなっている。ただ、現実はそうならない。

    調査に寄せられた医師の声を見ると、構造が浮かぶ。

    術後出血が起きても、時間外はクリニックの電話が不通。緊急対応をしない。眼瞼の手術で明らかに目が閉じなくなっているのに、「手術は問題ない。眼科に行け」と追い返される。副作用を治すと謳う別の自費クリニックにかかり、さらに悪化する。

    例外的なエピソードではない。調査対象の医師たちが、日常として経験している光景だ。

    患者さんは施術したクリニックに対応してもらえず、別の医療機関を受診する。そこで初めてまともな診断が始まる。すでに症状が悪化していることも珍しくない。

    形成外科医の負荷

    とりわけ形成外科医への皺寄せが大きい。

    形成外科の本来の仕事は、先天異常の修復、外傷の治療、腫瘍切除後の再建だ。医学的に不可欠な手術を担う科である。ところが現実には、美容クリニックの失敗症例を引き受ける時間が無視できない量になっている。

    そもそも形成外科専門医は全国で約2,100名しかいない。学会員を含めても約5,000名だ。対して、美容外科を主たる診療科とする医師は2020年から2022年の2年間だけで32.4%増えた。診療所の美容外科医に限れば、2010年から2020年の10年で倍増している。形成外科医の数はほぼ横ばいのまま、後始末の対象だけが膨らんでいる。

    眼瞼手術で目が閉じなくなった患者さん。涙袋のたるみ取りで眼球運動障害が出た患者さん。二重手術の修正。本来、施術したクリニックが対応すべき合併症だ。

    医療資源は有限で、形成外科医が後始末に追われれば、先天異常や外傷の患者さんが後回しになる。 そのコストは見えにくいが、確実に存在する。

    責任を負わない設計

    調査の事例をよく読むと、これが「対応の不備」ではなく「設計」であることが分かる。

    合併症が生じた時点で診療受付を拒否する施設がある。同意書に「副作用が起こっても関与しない」と明記し、トラブルが出たら門前払いにする。患者さんは困り果てて救急外来を受診する。

    この手の同意書は、消費者契約法上、不当条項として無効になりうる。法的には争える余地がある。ただ、実際に訴訟を起こす患者さんは少ない。弁護士費用と時間を考えれば割に合わないからだ。クリニック側もそれを分かっている。だから同意書を盾にできる。

    あらかじめ責任を負わない仕組みが組まれている。施術して、利益を回収して、リスクだけ外に出す。ビジネスとしては合理的かもしれない。医療としては破綻している。

    この構造と「直美」の問題は地続きだ。初期研修を終えた直後に美容クリニックへ就職する若手医師が増えている。厚労省の統計でも、美容外科医の平均年齢は下がり続けている。東京都では2018年の45.7歳から2022年には43.2歳まで低下した。外科的トレーニングを十分に積んでいない医師が施術を行い、合併症が出ても自分では対処できない。結果、他科に回す。後始末の発生源と、後始末を拒否する体制が、同じビジネスモデルの中にセットで存在している。

    保険診療側の不公正

    保険診療で医原性が発生すれば、医師も医療機関も厳しく問われる。レセプト査定で削減されることもある。自分たちの医原性には、医学的根拠を示しながら説明責任を果たす必要がある。

    自由診療の医原性はどうか。患者さんが「自由に選んだ」という建前の下で、実質的に放置されている。保険診療側が尻ぬぐいを引き受けた上で、その保険請求には厳格な査定がかかる。 負担だけ押し付けられて、財政的にも報われない。

    現場で面倒なのは、レセプトの病名だ。自由診療の合併症を保険で治療するとき、「美容手術後の合併症」とは書きにくい。かといって実態と乖離した病名もつけられない。このグレーゾーンで担当医が板挟みになる。正直に書けば査定で切られるリスクがあり、ぼかして書けば後ろめたさが残る。

    制度としての歪みだ。

     
     
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