
「直精」を知って戦慄した 〜精神科の40%減算が意味すること〜
令和8年度の診療報酬改定で、精神科が荒れている。その中で「直精」という言葉を初めて知りました。
戦慄した、としか言いようがない。
直精とは
精神科の専門的なトレーニングを経ずに、いきなり精神科・心療内科を開業する医師のことです。美容医療で言う「直美」の精神科版。
医師免許さえあれば、標榜する診療科は自由に選べます。精神保健指定医でなくても精神科専門医でなくても、「心療内科」の看板は出せる。法的にはまったく問題ない。
そもそも「心療内科」と「精神科」は本来別物です。心療内科はストレスに由来する身体症状を扱い、精神科は精神疾患そのものを診る。ところが精神科クリニックが敷居を下げるために「心療内科」を名乗るケースが一般化し、患者の側からはほぼ区別がつかなくなっている。この曖昧さが、直精の温床になっています。「心療内科」のほうが軽く見える。行きやすく見える。だから患者も集まりやすい。
精神科には「通院精神療法」という保険点数があり、手術室も高額な検査機器も要りません。診察室と椅子があれば成立してしまう。この参入障壁の低さと安定した保険収入が、専門研修を省略した開業を可能にしていました。
数字を見ると、その膨張ぶりは明らかです。精神科の診療所数は1975年の779施設から2023年には7,761施設へ。約10倍。診療所で働く精神科医も2012年の3,559名から2022年には4,472名に増えています。すべてが直精ではないにせよ、参入障壁の低さがこの急増を支えていたことは想像がつきます。
指定医でなければできないこと
精神保健指定医という資格の重みは、その権限を見ればわかります。
措置入院の判断には指定医2名の診察が必要です。医療保護入院、任意入院者の退院制限、隔離、身体拘束。精神保健福祉法に基づく強制力のある処分は、すべて指定医にしかできない。患者の人権に直接関わる判断を担う資格であり、だからこそ取得要件も厳格に設定されています。
取得には臨床経験5年以上、うち精神科3年以上。5分野5症例のケースレポートを提出し、口頭試験を通過し、研修を修了する。合格率は7〜8割。最短で医師免許取得後5年。
逆に言えば、この資格を持たない医師が精神科を名乗って外来をやっているということは、法的に強制入院の判断すらできない医師が精神科の窓口に立っているということです。急性期の患者が来院したとき、自傷他害のリスクがあるとき、その医師には法的にできることが限られている。