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Photo byshinsukesugie

多重録音の始まり

    多重録音を始めたのは1983年、中学2年生の時でした。「多重録音」なんて、今どきは言わないんでしょうね。一人で音を重ねることは当たり前のことになっていますしね。それに簡単に素早く作業が出来て、廉価でそれなりの機材を揃えることが出来て…。羨ましい限りです。

    自作曲を作りたいと思い、それを作ったら録音したいというのは、音楽をやっている人間からすればごく自然なことだと思います。でも自分の場合、最初から弾き語りではなく、何人かの編成を必要とする音楽を想像していました。グループでやるような音楽が好きだったのでしょうね。

    とは言え、「じゃあ多重録音をやってみよう!」とすぐに直結した訳ではありません。そこに辿り着くまでには、様々な偶然と思いつきがあったのでした。

    当時、音楽を聴く装置は、AIWAの「CS-J50」というラジカセが主でした。これはWウーファーツインドライブ、DSLシステムの重低音機能があり、ラジカセの中でもサウンド志向のタイプだったと思います。レコードは家のステレオでカセットテープに落とし、それをこれで聴くという感じでした。このラジカセの素晴らしいところは、外部入力の端子があり、尚且つ録音レベルをマニュアルで設定出来るので、音圧の異なるレコードを聴感上揃えることが出来るところです。ラジカセとシステムコンポの良いところを併せ持ったラジカセだったのではないでしょうか。

    カセットテープのダビングをする時は、別のカセットデッキを持ってきて、その外部出力とラジカセの外部入力を繋ぐ訳ですが、ある日、それをやっている時にふと気が付いたのです。

    「ん?このマイクミキシングとはなんだ?」

    このCS-J50というラジカセは優れモノで、マイクミキシング端子とその入力ボリュームが付いていたのです。簡単に言うと、その端子にマイクを繋げば、マイクが拾った音をラジカセに録音出来るという訳です。

    「じゃあそれって、ダビングしてる音の上に、マイクの音を重ねられるのか?」

    そうです。そういうことです!ダビングをしながら音を重ねていけば、一人でも幾つものを音を重ねて録音することが出来るのです!それを発見したのが中学2年生の夏でした。

    それから安物のマイクを買い、ダビングにダビングを重ねる多重録音の日々。尤も、ギターが上手い訳でもないし、作る曲が良い訳でもない。ダビングにダビングを重ねているからノイズだらけ、パンポット(音の定位)も無いから、録ったものは全てセンターに重なっていくという音像。全てが陳腐で下手くそな自己満足でしかないのですが、それでも楽しくて仕方がない。まだ「マルチトラックレコーダー」など知らない時代のことです。

    現代の若者は、生まれた瞬間にあらゆるものが揃っていますから、こんなバカバカしい経験はしないでしょうが、我々の頃は全てがこんな感じでした。それでも、当時の大人達からすれば「今どきの奴は何でも揃っているから軟弱だ」みたいなことを言われていたのですから、時代の流れとは本当に不思議なものです。

    そんな感じで、音楽を作るということが始まっていったのです。


     
     
    1970年生まれ。ソロアーティストとしての作品の他、CM音楽や各種音源制作、他アーティストの編曲、演奏サポートなど、様々な音楽活動も行っております。 https://daisukewatanabe.square.site

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