
短編「昼下がり」丨#風まかせ文芸部
空腹で目が覚めた。
閉め切ったカーテンは今日も私を、時間が束縛する世界から守ってくれている。
枕元のスマホに目を遣ると、時刻は正午を既に回っていた。
何か食べないと。
何を食べよう。
といっても選択肢はほぼないに等しかった。
昨日買ったカップ焼きそばにしよう。
カップ焼きそばは何時だって私の味方だ。
フタを軽く剥ぎ、かやくを入れた後に電気ポットで線までお湯を注ぐ。
いつもと変わらない昼下がり。
結局、出来上がる間までに考えることも、いつも同じだ。
彼の料理が好きだったこと。
彼の作るカレーが好きだったこと。
彼は泊まりに来た時によく、材料を買い込んでカレーを作り置きしてくれていた。
いつ目が覚めても直ぐにお腹が満たせて、ちゃんと栄養が摂れるように。
朝起きと料理が苦手な私への、彼なりの優しさだった。
遅くに起きて、カレーを食べる。
それはいつの間にか私の習慣になっていた。
作り置きのカレーを温め直す度に、スパイスの香りと彼の優しさに包まれるような。
そんな日々が私は大好きだったし、これからもずっと変わらずに続くものだと思っていた。
なのに。
ピピピッ、というタイマーの音で現実に戻された。
カップのお湯をシンクに流し捨てながら、考える。私を捨てる時もこんな気持ちだったのだろうか、なんてつまらないことを。
私の注いだ愛情は、余計なものだったのだろうか。
放っておくと次々浮かんで来る嫌な考えたちは、シンクへと一緒に流し込んだ。
ありがとう、カップ焼きそば。
なんて無理に感謝を押し付けてみたりして。
ワンルームで独り、立ち昇る湯気をぼーっと眺めながら出来上がった麺を啜る。
あの時と変わらないのは、点けっぱなしのお昼の情報番組だけだ。
空腹を満たす為だけに食べたカップ焼きそばは、美味しいと感じる暇もなく私のお腹に収まってしまった。
カップの底には少しだけかやくが残っている。
まるで彼への未練みたいだ。
かき集めて、口に運ぶ。
美味しい、とは思いたくなかった。
食べ終えた後の部屋にはソースの香りが隅まで充満していた。
換気をしないと。
閉じきっていた窓を開ける。
新しい空気がいっぱいに入り込んで来る。
ソースの香りが、一気に和らいだ。
そうだ。
換気が必要なのは私自身で、それが今は上手く出来ていないだけ。
そんなこと、初めからわかっている。
時間が経てば、消えていく。
食べ終えたばかりのソースの香りも、彼が残していったカレーの香りも。
だんだん薄まっていく。
その為に私は、私の心の換気を繰り返さないといけないんだ。
たとえ、時間がかかったとしても。
でも、きっと自堕落な私のことだ。
それまで昼下がりの相棒は、やっぱりカップ焼きそばになるだろう。
カップ焼きそばは何時だって私の味方だから。
↑今回もこちらの企画に参加させて頂きました。
お題、ありがとうございます。
よろしくお願い致します。