
【被害回復の現実20】法務省発表と横浜地方裁判所判決――SNSニセ広告、誰が責任を負うのか
SNSで著名人の顔写真や名前を使い、投資を呼びかける広告を見かけることがあります。
一見すると、著名人本人が投資を勧めているように見える。しかし、実際には本人とは無関係の偽広告であり、誘導された先で金銭をだまし取られてしまう――。
こうした詐欺が社会問題となるなか、2026年9月30日、法務省は、SNSなどのサービスを提供する事業者や広告代理店が、一定の場合には、広告の調査・確認義務違反によって損害賠償責任を負うことがあるという考え方を公表しました。
ところが、その約2週間後の10月15日、横浜地方裁判所では、著名人になりすました偽投資広告をめぐるメタ社への損害賠償請求が棄却されました。
一方では、事業者が責任を負う場合があるという国の見解。もう一方では、SNS運営会社の責任を認めなかった裁判所の判断。
この二つを対比させながら考えてみました。
法務省が示した「広告の調査・確認義務」とは
法務省は2026年9月30日、総務省・経済産業省と連携し、「なりすまし詐欺広告に係るSNS等のサービスを提供する事業者及び広告の仲介・取次をする広告社における広告の調査・確認義務について」の周知を公表しました。
この発表で注目したいのは、SNS運営会社や広告代理店について、単に広告を掲載する場所を提供しただけだから責任を負わない、と一律に整理するのではなく、一定の場合には、広告の調査・確認義務に違反したことによる損害賠償責任が生じ得るという考え方が示された点です。
【参考】法務省「『なりすまし詐欺広告に係るSNS等のサービスを提供する事業者及び広告の仲介・取次をする広告社における広告の調査・確認義務について』の周知について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00420.html
一方、横浜地裁はメタ社への請求を棄却
こうした動きのなか、2026年10月15日、横浜地方裁判所で注目される判決がありました。
著名人の名前や写真を無断で使用した偽投資広告をめぐり、詐欺被害に遭った個人6人と法人1社が、SNS運営会社のメタ社とその日本法人に対し、合計約4,300万円の損害賠償を求めていた事件です。
原告側は、メタ社がSNS上に偽広告が氾濫していることを認識しており、広告を削除することもできたのに放置したため、詐欺被害が生じたと主張していました。
しかし、横浜地裁は原告側の請求を棄却しました。
報道によると、裁判所は、広告が掲載された時点で、詐欺的な虚偽広告だと容易に認識できたとは言い難いと判断しました。また、原告らが広告を閲覧した2023年4月から11月当時、広告が虚偽であるという情報がメタ社側に寄せられていたとは認められず、名前を利用された著名人らがメタ社に削除を求めていた事実も認められないとしました。
そのうえで、メタ社側が広告の真実性を調査・確認し、広告を掲載しない義務を負っていたとはいえないとして、請求を退けたと報じられています。
原告側は控訴する方針を示しています。したがって、この判決だけで、SNS運営会社の責任について最終的な結論が出たわけではありません。
【参考】「メタ社への損害賠償請求棄却=『偽広告放置』主張認めず―横浜地裁」(nippon.com、2026年10月15日)
https://www.nippon.com/ja/news/yjj2026101500123/
3.二つの動きは矛盾しているのか
法務省の発表と横浜地裁の判決を並べると、一見、相反する方向を向いているようにも見えます。
しかし、両者は必ずしも矛盾しているわけではありません。
法務省の発表は、プラットフォーム事業者や広告代理店が、一定の事情のもとで広告の調査・確認義務違反による損害賠償責任を負い得るという、一般的な法的考え方を周知したものです。
一方、裁判所は、個別の事件で提出された証拠や具体的な事情をもとに、実際に法的責任が成立するかどうかを判断します。
今回の判決も、偽広告の問題そのものを軽視したというより、当該広告の掲載時点で、メタ社に調査・確認義務を課すだけの事情があったと証明できたか、という点が趣旨であるとおもいます。
被害者側にとって、何を証明するのが難しいのか
ここで考えなければならないのが、詐欺被害者側の立証の難しさです。
被害者にとっては、広告が詐欺だったことを知っていても、広告を見た時点では巧妙な偽広告を見抜けなかった、ということもあります。
そして、広告を見抜けなかったという事実と、SNS運営会社が掲載前に詐欺だと判断できたはずだという主張との間には、証明すべき隔たりがあります。
さらに、広告主の本人確認記録、広告の審査過程、広告主とのやり取り、広告の差し替え履歴などは、被害者の手元にはない情報である可能性が高いでしょう。
だからこそ、今後の訴訟では、広告そのものの内容に加え、広告主がどのような人物・企業だったのか、掲載時に不審な事情があったのか、事業者がどのような確認を行っていたのか、といった点が重要になると考えられます。
この立証の難しさが、被害回復を考えるうえでの大きな壁となっています。
これからの課題――広告を掲載する側に、何が求められるのか
今回の法務省の発表は、広告による詐欺被害を防ぐために、広告を掲載する側や仲介する側がどのような対応をすべきか、あらためて考えるきっかけになります。
広告主の確認は十分だったのか。著名人の名前や写真を使う広告について、必要な確認が行われていたのか。不審な広告を発見した場合、迅速に対応できる仕組みがあったのか。
こうした課題は、詐欺被害の防止という観点からも、被害発生後の責任を考えるうえでも、重要です。
おわりに――被害回復への道は、まだ閉ざされていない
詐欺を実行した人物の特定や資金の回収が難しいだけでなく、広告を掲載した事業者の責任を追及しようとしても、被害者側には立証の壁があります。今回の横浜地裁判決は、その厳しさを改めて示したものといえるでしょう。
それでも、今回の法務省の発表には、前向きに受け止められる点があります。
それは、なりすまし詐欺広告による被害について、SNSなどのサービス提供事業者や広告代理店も、一定の場合には損害賠償責任を負うことがある、という見解が示されたことです。
今後の裁判や事業者の取り組みを通じて、広告の審査や確認のあり方が改善され、詐欺被害の防止と被害者の救済につながっていくことを期待したいと思います。