
田中英行/Eikoh Tanakaとは何者か
アートプレナー、アーティスト×アントレプレナー。つまり現代美術家であり、起業家だ。株式会社Qe to Hareの代表取締役。
アートと向き合い、問いを立て、掘り下げ続けた。その延長線上に、気がついたら会社があった。起業しようと思ったのではなく、アートが社会と接続する場所を本気で作ろうとしたら、経営者になっていた。「アーティストか、経営者か」と問われれば、アーティストと答える。ただ、アーティストであり続けるために、経営者でもある必要があった。
やってきたこと
京都の西、亀岡で生まれた。田中家はその地に先祖代々600年以上住み続けてきたと、菩提寺の住職から聞いた。古い土地に生まれ、幼い頃からその「普通」が肌に合わなかった。その違和感が、すべての出発点だと言える。

2007年、京都市立芸術大学大学院にてMFAを取得し、在学中からアーティスト活動を続けてきた。アーティストコレクティブ「Antenna」としての活動を経て、気がつけば、国内のアートプロジェクトから世界12ヶ国45都市まで、60以上の美術館・ギャラリー・芸術祭などで作品を制作・発表してきたことになる。SOMA美術館(韓国)、ボン美術館(ドイツ)、六本木アートナイト(東京)など。2017年にはTOKAS二国間交流事業により、スイス・バーゼルで3ヶ月間の滞在制作を行なった。


作品を作るだけでは終われなかった。目に見えない土地の記憶や物語を体験装置として立ち上げ、展示からその先の持続まで設計することをいつしか目指し、続けてきた。作品が社会の中でどう生き続けるかを考えていたら、経営をやることも当然だと考えた。
2019年、株式会社Qe to Hareを設立。アーティストの視点から企業・地域へのプログラム提供を行い、地方創生にも携わっている。京都大学IMSでの教育プログラムの企画設計、株式会社サイバーエージェントでの覚醒アートプログラムの設計・運営、ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 伊東豊雄インスタレーション制作など。

著書に『L.L.A. BOOK——アート思考を獲得するための10のレッスン』。2025年には、経済産業省×Forbes JAPAN「ART & BUSINESS AWARD」ファイナリストに選ばれた。現在は東京藝術大学の博士課程で、認知科学とアートと社会の交点を彫刻を通じて研究している。

Qe to Hare という会社
Qe to Hareは「アートの可能性を社会に開く、クリエイティブ・クエスチョニング・カンパニー」だ。
社名は、柳田國男の「ハレとケ」から来ている。学生時代、民俗学的な視座に興味を持ったのがきっかけだった。目に見えないものに意味を見出し、日常の中に聖なる時間を設ける感覚。日本の霊性的・文化的な世界観が、当時からずっと好きだった。
同時に、もっと個人的な苦しみもあった。子どもの頃から、どこにいても「ここではない感覚」があった。目の前の現実に、うまく着地できない感覚。周囲の人が感じているらしい「生きている実感」や「当たり前の感覚」が、自分にはどこか薄かった。その感覚を言葉にする術もなく、ただ抱えていた。
アートと出会ったとき、初めて「その感覚にもっと目を向けて良いんだ」と考えられるようになった。アートには、日常の表皮を破り、内側に触れるような瞬間がある。精神がふと飛躍する瞬間、自分の輪郭が少し変わるような感覚。自分が長年求めていたのはそれだったと気づいた。
だからこそ問い続けてきた。日常(ケ)を、視座を変えることで非日常(ハレ)化できないかと。その飛躍を、個々の人間の内側でどう引き起こせるか。その探究がそのまま、事業になった。

問いを起点に、視点の変容、文脈の再構築、創造的な実装という三つのプロセスで動いている。経営者の視点を育て、組織に眠っている言語化されていない本質を掘り起こし、それを映像・空間・言葉として社会に届ける。サイバーエージェント、京都大学、VOGUE JAPAN、NISSHA×トヨタとの仕事は、すべてその問いを起点にした協働だったと言えるかもしれない。
京都・亀岡では、100年を超える古民家のアートカフェ「no-mu」、サウナとアートの宿「6ishiki」を運営し、2026年には京都・東山に「nōn tea ceremony」をオープンした。これらは自社事業であり作品でもある。訪れた人の内側で何かが静かに変容する——そういう「場」の体験を設計している。

ずっと変わらないもの
アートと向き合い続けて二十年以上、問い続けてきたことがある。
人間は世界をそのまま見ていない。過去の経験や記憶を通して、自分だけの内的世界を構築している。私たちが「見ている」と思っているものは、ほとんどの場合、自分が作り上げた世界のモデルだ。アートとは、そのモデル自体を揺さぶる装置だ。既存のカテゴリに収まらないものを前にしたとき、一瞬、認知に裂け目が生まれる。その裂け目から、新しい自己のモデルが生まれる。
その体験は、美術館の中だけで起きることではない。食事でも、眠る時でも、移動中でも——日常の一部を丁寧に設計することで、人の内側に新しい視点を彫り込むことができる。
「人は、どんな瞬間に自分の見ている世界が変わるのか。」
その問いを軸に、日々様々な活動をしている。
