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AKAI S612とS900、サンプラーが新しかった時代

    80年代にAKAIからデジタルサンプラー「S612」が発売されました。

    それまでAKAIといえば、オープンリールデッキやカセットデッキなどを作っているオーディオメーカーという印象が強かったので、突然楽器の世界に参入してきたことに驚きました。

    当時、サンプラーといえばフェアライトやシンクラヴィアなど、プロが使う非常に高価な機材というイメージがありました。

    そんな中、国産メーカーから外部ドライブを合わせても20万円台で購入できるS612が登場したので、興味津々で見ていました。

    当時付き合いのあった、同じようにシンセサイザーや新しい機材が好きな音楽仲間が早速S612を手に入れ、操作しているところを見せてもらいました。

    そこでやっていたのが、自分の声をサンプリングして鍵盤で音階をつけて鳴らすというものです。

    今となっては珍しくありませんが、当時初めてサンプラーに触れた人の多くが、一度はやってみたことではないでしょうか。

    まだサンプリングというものの使い方が今ほど確立されていなかったので、「これを何に使えるだろう」と、いろいろ試していた時代だったように思います。

    使い方のひとつとして、市販のCDなどからドラムの音をサンプリングして使うという方法を、雑誌の記事で見た記憶もあります。

    自分で曲を作っていると、ドラムの音はかなり重要です。

    他のパートをいくら重ねて多重録音しても、ドラムの音が貧弱だと、どうしても曲全体に説得力が出ない。最後まで納得できず、結局ボツにしてしまうこともありました。

    そう考えると、気に入ったドラムの音を取り込んで自分の曲で使えるというのは、とても魅力的でした。

    S612は価格も含めて革新的な機種だと思い、購入しようか迷っていました。

    ところが、そうしているうちに上位機種のS900が発売されました。

    S612で購入を躊躇していた部分がいろいろとパワーアップされていたので、こちらは迷わず購入しました。

    現在では、サンプラーをブレイクビーツに使うなど定番的な使用方法も確立していますが、当時の私は別のことも考えていました。

    「手持ちのシンセサイザーをサンプリングすれば、1台しか持っていないシンセを2台あるように使えるのではないか?」

    という発想です。

    特にプログラムを保存できないアナログのモノシンセなどで気に入った音が作れたら、それをS900にサンプリングして保存する。

    そして内蔵のフロッピーディスクドライブを使って、自分だけのオリジナル音色ライブラリーを作っていく。

    そんな使い方にも面白さを感じていました。

    現在ではサンプラーもソフトウェアになり、私もHALionを使っています。

    保存できる容量も当時とは比較になりませんし、SSDに大量の音色を保存できるので、フロッピーディスクが場所を取ったり、目的のディスクを探し回ったりする必要もなくなりました。

    便利さという意味では、まったく別世界です。

    一方で、サンプラーが登場し始めた頃に聴いたYESの「Owner of a Lonely Heart」のオーケストラヒットや、Art of Noiseのサウンドには大きな衝撃を受けました。

    録音した音を再生するだけではなく、それまでとは違う音楽表現に変えてしまう。

    そこにサンプラーの面白さがあったのだと思います。

    サンプラーがハードウェアからソフトウェアに変わり、扱える音の量も比較にならないほど増えました。

    それでも、自分で音を取り込んで「この音をどう使おうか」と考える面白さは、S900を使っていた頃から変わっていないように思います。

    今の環境だからこそ、また自分なりのサンプラーの使い方を見つけられればと思っています。

     
     
    過去の音に敬意を払いながら、いまの技術で新しい響きをつくる。ELECTRIC RETROSPECTは、アナログとデジタル、そしてAIを横断する電子音楽/サウンドデザイン・プロジェクト。制作記と、80〜90年代のシンセやMacの記憶を綴ります。

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