
#未開封のダンボール|『エスケープゴーティング』|#拝啓文芸部
彼女はモモコ。40代の主婦。
最近、趣味の創作活動に熱が入りすぎてスマホとパソコン漬けの日々。
肩がガチガチにコリ固まってしまっているらしい。
「ん、なになに?肩甲骨外し?ふーん、こうやると良いのか…」
テレビの中のタレント医師が肩をグリングリンと回してデモンストレーションしている。
「わぁ、これはいい!肩が温まって頭痛も楽になった(気がする)」
翌る日もそのまた翌る日もグリングリン。
キッチン脇でグリングリン。
(なんか最近飽きてきたなぁ。そうだ、良いこと思いついた!このグリングリンに合わせて脚もグリングリンとやれば良い運動になるじゃない!)
「せーの、ワンツー、ワンツー、ははっ、これはいい!ワンツー、ワン…」
『ガツッ』
「うぐっ!いっったーーい!!」

モモコは膝を冷蔵庫の角に勢いよくぶつけた。
みるみるうちに紫に染まり出す膝。
痛みに耐えきれず、苦悶の表情を浮かべるモモコ。
膝を押さえ床をのたうち回るモモコ。
立つんだモモコ、負けるなモモコ。
「ったく、何よあの医者!肩が治るって言うから言うとおりにエクササイズしたら、膝までやっちゃったじゃない!
もうあんな医者の言う事なんて信じない。テレビのいう事なんて信じたアタシがバカだったわ!痛い思いはもう懲り懲り!」
とんでもない言いがかりである。
あのタレント医師は一言も膝を回せとは言っていない。
『肩甲骨をほぐすために肩を回すと良いですよ』
と一例を示したまでなのだ。
『スケープゴート』
スケープゴートとは他人の失敗や集団のトラブルなどの責任を不当に押し付けられる身代わりや犠牲者のこと。
あの医師はモモコにとってまさにこのスケープゴートだった。
彼はフトシ。40代の会社員。
朝8時に出社し17時に退勤する。典型的なデスクワーカー。
ご多分に漏れず、毎年の健康診断でメタボリックシンドロームと産業医に釘を刺され続けている。
(はぁ、俺も歩かないと駄目かなぁ...)
フトシはすっかりダブついた脇腹の脂肪を握りしめ、あの産業医から言われた言葉を思い出していた。
「フトシさん、毎日とは言いませんが、例えば通勤時に一駅前で降りて歩いてみるとか、毎日の日課にプラスすると、無理なく続けられますよ」
「そうか、その手があったか!飽きっぽくて面倒くさがりの俺にピッタリじゃないか」
目指せ、日々8000歩のウォーキング。
ちょっと早起きウォーキン・スルー・ザ・パーク。
(なんか最近雨続きで億劫だなぁ。そうだ、良いこと思いついた!ウォーキングマシーンを買えば雨の日でもへっちゃらじゃないか!)
「おお、これこれ。最新式ルームランナー『275,000円』少し値は張るが、これぐらいの投資をしないとすぐ飽きるからな俺」
『ポチッ』
「うわっ、押しちゃった!押すか押すまいか5時間迷ったけど押しちゃった。ははっ、これはいい買い物をしたぞ」

『ピンポーン』
配達業者「木村さーん、お届け物でーす」
「あー、いま手が離せないんで車庫脇の物置に入れといてもらえます?鍵はかけてないんで」
配達「はーい。わかりましたー」
1ヶ月後――
子「パパー、、あの大きなダンボール何が入ってるの?」
「ん?、、あ、あれはね。お父さんの夢と希望が沢山つまってるんだ。大きいだろ?はは、ははは」
3ヶ月後――
妻「あなたー、あの大きなダンボールいつよけてくれるの?自転車置けないんだけど。仕事で使うものだって言ってたわよね?」
「あ、ああ。そのうちよけるから...」
(あーあ、面倒くさくて箱から出してもいないし、なんならすっかり忘れてたよ。あれ売ったらいくらになるんだ...体重が減るどころかかえってストレスで自棄食いして太ったじゃないか...)
「だいたい、なんだよあの産業医。一駅前で降りて歩けって、ここのところ雨続きでまともに歩けやしないじゃないか。仕事前にびしょ濡れになって業務に支障が出るだろ!
こんな使いもしない機械にこんなに金かけさせて。あー、これだから医者の言うことなんて聞くもんじゃ無いんだよ。うまい話には気をつけないと金がいくらあっても足りないよまったく!」
とんでもない言いがかりである。あの産業医は一言も高価な道具を買えとは言っていない。
『日常の行動にプラスアルファすると無理なく続けられますよ』
と一例を示したまでなのだ。
『エスケープゴーティング』
エスケープゴーティングとは自分の失敗を棚に上げ、その責任を身代わりや都合のいい相手に不当に押し付け、事の本質から逃げる行為のこと※
フトシは逃げた。逃げ続けた。
己の不摂生や失敗を仕事やあの医師のせいにして。
※これはフィクションです。
氷河期世代...ミッドライフクライシスの夜は更けていく。
今日も行き場を失った未開封のダンボールと
決してほぐされることのない凝り固まった心
彼らの明日に希望の光は差し込むのか、
がんばれモモコ、負けるなフトシ。
がんばれ氷河期世代!
Fin.
(1981字)
こちらの企画に参加させていただきました。
#拝啓文芸部
#未開封の段ボール
ご精読ありがとうございました。
こんな形で詩の世界観をベースに、AIとの共創で生まれた物語(詩小説)をお届けしています。他の作品もあわせてお楽しみください。