
不確定性関係には誤解が多い
お久しぶりです。再校ゲラのチェック作業で疲弊していました。これは苦行です。原稿はこれまでにも何度も何度も読み直しましたが、念のため、私自身が書いた原稿を最初から最後までもう一度読み通しました。この段階に来ると、たとえ書き直したいと思ったとしても、もう今さら大きくは書き直すわけには行かないのです。変な部分が無いようにと祈りながら読み直します。数ヶ月も昔に書き上げたものですから、今の自分ならもっと別の書き方をするだろうなと思う部分も少しは出てきます。しかしそれは、すでにこの原稿を書き上げたから出てくる感想なのでしょう。私の気持ちは次の段階へ向かおうとしているのです。
ええ、改めて読み返してみると、ちょっと変な本です。誰にでも分かりやすくしようと思って書いた第1章と第2章は、今となっては私にはとてもじれったく感じられ、章が進むにつれて私には読みやすくなっていきます。私だけがそうなのかもしれません。この本を手に取ってくださった皆さんはどう感じられるのか、審判が下るのを待つ心境です。書き上げた時点でこれでいいと判断した自分を信じることにしましょう。
前置きが長くなりました。この本の発売日まで、各章の内容を少しずつ紹介させていただいているところです。今日は第4章です。これまでの紹介記事のまとめのページも用意してあります。
『量子力学の〈新常識〉-意識・実在・情報が再定義する物理学-』2026年6月25日発売
第1章 波動関数の誤解
第2章 20世紀末に起きたこと
第3章 意識と量子
第4章 不確定性関係の新常識 ← 今日はここ!
第5章 奇妙な遠隔作用か、量子もつれか?
第6章 デコヒーレンスと多世界解釈
第7章 量子的な線形重ね合わせの現代的理解
第8章 古典的に見える現実をどう捉えるか
第9章 量子コンピュータ
量子力学の不確定性関係に関しては、世間にあれこれと誤解が残ったままになっています。たとえば「ハイゼンベルクの顕微鏡」と呼ばれる思考実験の話が有名です。粒子の位置を観測するには光を用いなくてはならないけれども、その波長が長いと像がぼやけてしまい、波長を短くすると今度はエネルギーが強すぎて、観測しようとしている粒子を叩き出してしまう。そのような考察から粒子の位置と運動量の不確定性関係を導いたという歴史的な経緯があるのですが、これが量子力学の不確定性関係とどう関係しているのかという議論がいつも曖昧なまま終わるのです。
これは小澤正直が導出した「小澤不等式」によって明確に解決が見られました。量子力学を情報理論として整理した成果のひとつです。この辺りの話は是非、知識のアップデートをしていただきたいところです。
他には「不確定性原理」というのは今となっては原理ではないので「不確定性関係」と呼ぶようになっていますという話も大切です。語感の強さに惑わされて道に迷う人が出ないように交通整理が必要かもしれないとも思います。
時間とエネルギーの間には位置と運動量のような不確定性関係は成り立たないという話も最近はよく知られるようになってきましたが、誰かが繰り返し伝えていかないと忘れやすい話です。量子力学を形式的に学んでいると、この誤解に陥りやすいのです。
角度と角運動量との間の不確定性関係も、量子力学を形式的に学んでいると誤解しやすいところですが、これは成り立ちません。
ごく短時間ならエネルギー保存則は破れても良いという誤解も、世間に広まりすぎています。これは科学系の豆知識を伝えるような本などで広められてしまっているので、正しい知識を広めて誤解を一掃したい気がします。
トンネル効果で、壁の中に粒子の存在確率が染み込む話は有名ですが、だとすると、壁の中で粒子が発見されたら、高いポテンシャルエネルギーの山の上にあるわけで、そのエネルギーはどこから来たのかという疑問が生まれます。これも小澤不等式と同様に、情報理論的な量子力学によって観測とは何なのかということを明確にしたお陰でしっかり説明できるようになっています。
この章では以上のような話をひとつひとつ考えていきます。
先ほど、「変な本です」と書きましたが、いきなり専門的な数式が出てくる節と、文章だけで説明が終わってしまう節が入り混じっているからかも知れません。数式は物理学科の学生向けレベルなのですが、そういう議論が長々と続くわけでもありません。推理小説に出てくるような犯人が現場に残した「謎を隠した暗号」として解読を試せるレベルではないかとも思います。
これまでの紹介記事のまとめのページはこちらです。