
NOT A HOTELはなぜn8n Enterpriseを導入したか:AI Workflowを用いた業務プロセスの刷新
この記事は、NOT A HOTELのソフトウェア開発連載「Inside the SOFTWARE TEAM」です。
NOT A HOTELの @enpipi です。
AIの登場により、人が行っていた作業をAIに任せられるようになりました。また、適切なディレクション次第で、自分にはできないこともAIが担ってくれる時代になりました。
本記事では、NOT A HOTELにおける業務プロセス改善の取り組みと、n8n Enterpriseを導入した経緯をお伝えします。
AIを主体とした業務プロセス刷新の好機
NOT A HOTELの業務プロセス改善において、現時点で私たちが求めているのは人を代替するAIではなく、AIを主体とした業務プロセスへの刷新です。
煩雑な業務プロセスの中で部分的に人をAIに置き換えるよりも、AIを主体にした業務プロセスへ刷新する方が、大きな成果と価値を生み出すからです。
スタートアップの組織では、ビジネスをスケールさせる段階で業務プロセスが十分に整っておらず、人の判断に依存して属人化しがちです。
NOT A HOTELでは、こうした業務プロセスを整備する際に、AIを主体とした業務プロセスへと再構築しています。
また、多くのステークホルダーが関わる場合、業務プロセスの改善には時間がかかります。人が入れ替わりコンテキストがわからない業務が増えると、難易度も高くなります。
そうなる前に、現場の判断で業務プロセスを再構築できる今こそが最大の好機です。この好機を活かすことが、NOT A HOTELの今後の成長曲線に大きく影響すると考えています。
AIを主体にした業務プロセス改善の具体例についてはこちらの記事やスライドを参照ください
AI Agent VS AI Workflow
Anthropic社のBuilding effective agentsによれば、AIの構築においてAI Agentと、AI Workflowと大きく2つの設計方針があります。
- Agent: LLMが自身のプロセスとツールの使用を動的に指示するシステムであり、タスクの達成方法をAI自ら制御
- Workflow: LLMとツールが事前定義されたコードのパスを通じて調整されるシステム
本記事内ではこの設計方針を参考に以下のように整理しています。
AI Agentとは
AI Agentは自動車のように目的地に対してAIが自律的に進みます。
柔軟性が高く、複雑な業務の箇条書きからスライドや画像を生成したり、専門的な調査から提案を行える可能性があります。ディレクションができれば、自分ができないこともAIに任せられる大きな可能性を秘めています。
AI Workflowとは
AI Workflowは、従来の自動化とAIのハイブリッドです。AI Agentのように自律的に任せるのではなく、ワークフローの一部をAIに担ってもらいます。ルーチンワークのような安定した出力を期待する、一貫した作業の自動化に適しています。
AI Agentが完全自動運転の自動車ならば、AI Workflowは電車のようにレールに沿って動くイメージです。

どちらも価値があるが、目的に応じた使い分けが重要
AI AgentとAI Workflowは、どちらも業務改善の有効な手段ですが、目的に応じた使い分けが重要です。
AI Agentの特徴
自分では思いつかないやり方で目的を達成してくれる可能性があります。一方で、望むプロセスで目的を達成してくれない可能性や、目的を達成できない可能性もあります。
AIモデルが進化するにつれ、こうした課題は減っていくものの、執筆時点では人によるチェックが必要です。
AI Workflowの特徴
AI Agentに比べて柔軟性はない代わりに、AIに任せる領域が狭いため、相対的に一貫性があります。AIを使わずに組んだオートメーションは必ず同じ結果を得られるからです。
業務プロセスの構築はAI Workflowと相性が良い
業務プロセスの構築という観点において、安定した自動化と一貫性のある出力を期待するなら、AIの裁量を最小限にしたAI Workflowが親和性が高いと考えます。
一概にAI Workflowと相性が良いとは言えませんが、既存の業務プロセスを体系的に改善していくという点においては、AI Workflowの方が相性が良い傾向にあると実感しています。
AIを主体にしたワークフローを構築する
AIについてこれまでは、文章などを人が作り、AIに精査や生成させるチャットベースでの利用がメインでした。しかし、ワークフローになれば先にAIが文章を生成したものを人がチェックするという仕組みにすることができます。
例えば、メールが届いたらをトリガーにAIが自動で返信文章を生成して人がチェックするということができます。
こうしたAIを主体としたワークフローを作るには、これまでの業務プロセスの考え方からAI Workflowならではの考え方へ刷新する必要があります。
1.AIを業務に「使う」から「融かす」
ユーザー自身がAIとやりとりするのではなく、自動的にワークフローがトリガーされることが重要です。専用画面を開いたり、SlackでBotにメンションしたりする方法では、ユーザーが適切なタイミングで使うことを習慣化する必要があります。適切なトリガーを設定すれば、ユーザーはAIを意識せずに業務プロセスを自動で回せます。
- メールを受信したら返信内容を自動生成する
- 商談後の文字起こしをAIが要約してSalesforceに追記させる
- AIが問い合わせを一次受けして、適切なメンバーに通知する
- エラー内容をAIに解析させてレポートさせる
2.業務の終わりと始まりをAIで繋ぐ

業務のおわりは、なにかの業務の始まりでもあります。また、業務の終わりとは何かをアウトプットすることとも言えます。アウトプットは次の業務のインプットになります。AI Workflowを考えるうえでアウトプットをトリガーに次の業務プロセスを開始することを意識することで新しい着想を得ることができます。
例えば、商談後の文字起こしをAIに任せたあと、次にやるべき業務に着目します。そうすると、文字起こしの情報から、「Salesforceに登録する」「お礼メールの下書きを生成する」といったアイデアを想起することができます。アウトプットを二次利用する観点で業務を見直すのがおすすめです。
3.「人しかできない作業・判断」に踏み込む

すべてでなくとも一部をAIが担える可能性がある
従来の業務プロセスでは人しかできない作業や判断が1つの区切りになっていました。しかし、AIが人の作業や思考をトレースすることで人しかできない作業も代替できる可能性が出てきました。ただ、いきなり代替するには執筆時点ではまだ敷居が高いです。そのため、人の作業プロセスを分解して一部をAIに移譲するところから始めるのが良いとされています。
高い成果をだす業務プロセスを構築するための3つの知識
AI を主体にしたワークフローを構築するには、次の3つの知識が重要だと考えています。
ドメインの知識: 業務の本質を理解すること
AIの知識: AIの特性と限界を把握すること
SaaSの知識: SaaSの機能を最大限活用すること
この3つを押さえることで、何をどう改善すべきかが明確になり、業務プロセス改善の効果を最大化するワークフローを構築できます。
特にSaaSの特性を適切に理解しないと、SaaS本来のポテンシャルを引き出せなかったり、AIに依存するプロンプトになり出力が安定させる難易度が上がってしまいます。
こうした考えから、NOT A HOTELではn8nを採用しました。
n8nを選んだ理由
n8nとは
n8n(エヌエイトエヌ)は、ノードベースのビジュアルエディタでワークフローを構築し、アプリやデータ、AIをつないで業務を自動化できるワークフローオートメーションプラットフォームです。クラウド提供とセルフホストの両方に対応しており、ドラッグ&ドロップの手軽さとコードによる柔軟な拡張性を併せ持ちます。
n8nは、AIを主体としたワークフローを構築するうえで非常に相性がよいツールです。様々なSaaSを扱えて、柔軟な設計が可能。トリガーも豊富にあり、AI Agentや AI Workflowを構築するために必要な物が揃っていました。
n8nで構築できるAI Workflowの例
1.LLMを用いた情報解析

OpenAIやGeminiを使った要約・画像生成など、基本的な操作も可能です。
文章生成やPDF解析にも活用できます。
上記は、RSS Feed Triggerから取得したブログの内容をAIに要約させてSlackに通知するAI Workflowの例です。
2. AI Agentをワークフローに組み込む

n8nはAIにMCP Clientや、Google CalendarやSlackなど特定のサービスをToolとして利用できる専用の機能があります。
上記は、n8nのクレデンシャル操作をWebhookで受け取り、ログ内容を解析するAI Workflowの例です。AIにSlackのユーザー名とn8nのProject名を探すToolを渡しているため、ログ解析に加えて、Slack通知時には操作者をメンションしたり、ワークフロー名を表示することができます。
3. 文章から経路分岐、特定の情報を抽出する

n8nでは、経路分岐や特定の情報抽出にもAIを活用できます。
問い合わせ内容を分析して「フィードバック・依頼・相談」を判断し経路分岐したり、文章からサービス名やユーザー名を抽出して変数として利用できます。
上記は、Slackでメンションされたら相談かフィードバックかを分岐し、相談の場合はAIが回答、フィードバックの場合はサービス名を抽出してスプレッドシートに転記するワークフローの例です。
AIが分析・判断するため、文章や文脈から経路分岐が可能になり、表記揺れがあっても必要な情報を抽出できます。これにより、従来は構築が難しかった部分も自動化できるようになりました。
なぜEnterprise Planなのか
NOT A HOTELがn8nのEnterprise Planを選択した理由は、全社的なワークフロー改善を推進するために必要な機能と体制を確保するためです。
具体的には以下の3つの理由があります。
1.BizTechチームで迅速にフォローできる体制
n8nは習得の難易度がやや高いサービスです。そのため、迅速にフォローアップできるよう、私が所属するBizTechチームで状況をすぐに把握できる環境が必要でした。
下位プランでは後述するProject機能が使えないか、作成できるProject数に制限があるため、フォローアップが難しいと判断しました。
2.Projectを用いたチームや部署での管理

n8nには、ワークフローとクレデンシャルをチームで管理するProject機能があります。この機能を無制限で利用できるのはEnterpriseプランだけです。
実際、クレデンシャルやワークフローはすぐに増え、どのクレデンシャルが誰のものかわからなくなりがちです。統制された運用を推進するには、クレデンシャルとワークフローを適切に管理できるProjectが不可欠でした。
3.セキュリティと可用性の担保

n8n EnterpriseはSSOは勿論のこと、Projectごとの権限を細かに制限したり、Log Streamingを用いたワークフローやクレデンシャル操作の様々な監査情報をWebhookにすることができます。
個人のGmailクレデンシャルを作成したらすぐに検知することや、意図しないワークフロー実行回数の過度な消化を検知することができるようになりました。
n8nを用いて全社の業務プロセスを刷新する
これからn8nを用いて全社の様々な業務プロセスを再構築し、現場でも自らアイデアを想起し実現できるように推進していきます。
重要なことは、AIに丸投げせず運用設計を見直す。最適な「手段」として AI を組み込むことです。
それがNOT A HOTELのミッションである日本の価値を上げることに繋がると信じています。
現在、NOT A HOTELのSoftwareチームでは採用強化中です。
カジュアル面談も受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。