
恋するプリンとゆるルン密着旅 28 「楽しい」を積み重ねる
二人はコントのようになって笑っていると谷崎さんが声をかけてきた。
「こんばんは、良かったら一緒に飲みませんか?」
「はいっ?…………もしかして僕らはうるさかったですか?」
「いえ、旅の楽しみは人との出会いもありますから、良かったら一緒に飲みたいと思いまして」
「そうですか」リンを見ると頷いている。
「それでは是非ご一緒させてください、よかったら私どもの車の方に来ていただけると助かります」
「わかりました、じゃあ準備してお伺いします」
火の始末をして焼いた肉やつまみとハイボールを持ってバスの方へ向かう。
大きなタープの下には大きめなテーブルとしっかりした椅子が俺たち二人の分も用意してある。そして優しそうな奥さんからにこやかに会釈された。
「どうぞどうぞこちらへ、私は谷崎順一と申します」
「こんばんは、久子と申します」
「初めまして、桐生匠真です」
「寒河江凛です」
「ほう、お二人はご夫婦じゃないんですか?」
「お父さん、野暮なことは聞かないの!」
奥さんに嗜められて苦笑いしている。
「やっと昨夜彼氏になりました」リンが楽しそうに言うと。
「そうですか!それはお祝いしなきゃあ」
「そうですねえ」
谷崎さんは車に入りワインボトルを持ってくる。
「これは私たちからのお祝いです」そう言って用意したグラスにワインを注ぎすすめてくれた。
「ありがとうございまーす!」リンはとても嬉しそうだ。
「それでは、僭越ながら私が乾杯の音頭をとらせていただきます、若いお二人にこれからたくさんの幸せが訪れますように、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
四人はワインを飲んだ。
「ご夫婦でキャンピングカーの旅行をされてるんですか?」
「はい、普通の旅行だと妻が疲れてしまいます、でもキャンピングカーならあまり気兼ねせずに旅ができるのでそうしてます」
リンは頷いて「なるほど、お父さんは優しいんだね」そう言って二人を見た。
「いやー……そうでもないんだよ、私はずっと仕事人間でねえ、定年になるまでほとんどどこへも連れて行ってやれなかったんだよ、だから定年を機にこの車を買って日本中の良いところを見せてあげたいと思ってねえ、これまでの罪滅ぼしさ」
谷崎さんは照れながら笑っている。
「そうなんだ、じゃあお母さんは思いっきりワガママ言っていいね」リンが笑って奥さんを見た。
「そうね、そうさせてもらおうかしら」にこやかに微笑んだ。
「タクマさんって言ったかしら?あなたはとっても素敵な良い人を見つけましたね」優しい顔でオレを見ている。
「はあ…………」照れる事しかできない。
「良い人と一緒にいると毎日が楽しいからねえ」谷崎さんは頷く。
「じゃあお父さんも楽しかったんだね?」リンは身を乗り出して聞いた。
「ああ、とっても楽しかったよ毎日が」
「へえー、じゃあお母さんがとってもよかったんだね?」今度は奥さんの方に身を乗り出す。
「そうかしらね、あまり良い奥さんと言われた事はないけど…………喧嘩はほとんどしたことが無いわね」
「ハハハ…………私は口下手だからね」
「お父さん、日頃からちゃんと感謝の気持ちを伝えなくちゃあダメだよ」
「そうだねえ」また照れながら笑った。
二人を見ていると、本当の信頼関係がそこにある事を感じる。
足の不自由な奥さんだと不便なこともたくさんあると思うし、愚痴のひとつも言いたくなると思う、しかし谷崎さんはそんな事は微塵も感じさせなくて奥さんを大切にして来たことが良く分かった。
「昔会社を辞めたことがあってねえ、大きな電気メーカーで働いていたんだが、どうしてもやりたい仕事があって小さな会社に移ったんだよ。
同僚からは給料も安い小さな会社で働くなんて馬鹿じゃ無いのかって言われたよ。しかし家内は賛成してくれたんだ」
谷崎さんは嬉しそうに残っていたワインをグッと飲み干す。
「私が移った小さな会社はそれなりに大きくなってくれて、私は役員になる事ができたんだよ、昔の同僚はリストラになったりして大変だったらしい。
でも私は家内が応援してくれたおかげでこうして楽しく旅ができてるんだよ」
「そうなんですか、奥さんはどうして小さな会社へ移るのを許されたんですか?」
「あら、だって生きていくことは日々楽しさを積み重ねていく事でしょう?辛い仕事をして毎日暗い顔をされたらそれはもう生活では無いわ」
「お母さんカッコいい!」リンは手を叩いて感心している。
オレはまた自分の小ささを思い知らされたような気がした。
その後は、これまで旅してきた良い所などを沢山話してくれた。
九州からずっと旅してきて、これから夏に向けて北海道まで行く予定だそうだ。
車の中も見せてくれた、とても広いし豪華で快適そうだった。
いい時間を過ごしてリンのキャンピングカーへと戻ってくる。
「バスコンを見ると私の車は狭く感じるなあ」リンはキョロキョロと車内を見回した。
「そうだなあ…………でも運転は楽だし良いんじゃないか」
「そうだね、狭いといつもくっついていられるし」リンは笑った。
その夜リンはオレに抱きついたまま眠ってしまう。
しばらくすると、リンが顔を埋めているオレの胸がジワーッと熱くなった。
「…………お父さん…………お母さん…………」微かな寝言が聞こえる。
谷崎さん夫婦を見て父母の事を思い出したのかも知れない、みなしごだと言ってたが、父母の事を覚えているのだろうか…………気になったがその事はリンが話したくなるまで聞かないことにした。