
死んでも結婚したくない| 落とし物の持ち主
この部屋には、幽霊が住んでいる。名前は胡蝶さんという。
押し入れを自分の部屋だと言い張り、家賃を払うわけでもなく、男の家に居着いている。
男もすっかり慣れてしまい、今では同居人くらいにしか思っていなかった。
胡蝶さんが後ろから声をかけきた。
「何か落ちましたよ」
「え? なに?」
「あなたの恋です」
「いつ落ちたんだ?」
「私と暮らし始めた頃じゃないですか?」
「そんな前かよ」
「ずいぶん長いこと落ちてますねえ」
胡蝶さんは、半笑いでこちらを見ている。
「どこに落ちてるんだ?」
「そこです」
「何もないぞ」
「私には見えます」
「じゃあ拾えよ」
「とりあえず、押し入れにしまっておきますね」
「なんで?」
「気にしないでください。空いてますから」
「いや、返してくれよ」
「必要なんですか?」
「落としたものなら、そりゃ……」
胡蝶さんは今にも吹き出しそうな顔で俺を見た。
「……変な人ですねえ」
「なぁ、恋って落ちるもんなのか?」
「落ちるみたいですねえ」
「そういうもんか……」
俺は少し考えた。
「じゃあ、俺はお前に恋してるってことか?」
胡蝶さんの笑顔が止まった。
「……え?」
「お前と暮らし始めた頃に落ちたんだろ?」
「そ、それは……」
「なんだよ。違うのか?」
胡蝶さんは顔をそむけた。
「……ちょっと押し入れの整理をしてきます」
「お前、何も触れないだろ」
▼ 第1話ではまさかの方法で前の住人を追い出していました……。第一話はこちら。
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