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■Angine de Poitrine

    EP-133のカーソルが点滅している。

    _

    誰も入力しない。

    誰も動かない。

    だが。

    会場の空気だけが変わった。

    YAMERARENA-Iの余韻。

    Fishboneの残響。

    Algoraveのコード。

    全部が混ざり合い。

    一つの巨大なノイズの雲になっていた。

    その時。

    スクリーンの端に。

    誰も触っていないのに。

    新しい文字列が現れる。

    《 REMOTE CONNECTION ESTABLISHED 》

    《 NODE: FRANCE 》

    《 ENGINE DE POITRINE ONLINE 》

    ざわつく会場。

    DJ Nobuが振り向く。

    Theo Parrishが笑うのをやめる。

    MONDO GROSSOが眉を上げる。

    「まさか」

    誰かが呟く。

    「来るのか」

    スクリーンが切り替わる。

    映るのは派手な映像ではない。

    古い工場。

    コンクリート。

    鉄。

    配管。

    ただそれだけ。

    そして。

    低音。

    ドン。

    ドン。

    ドン。

    ドン。

    重い。

    異常に重い。

    ベルリンのテクノとも違う。

    デトロイトとも違う。

    インダストリアルとも違う。

    機械が夢を見る時のリズム。

    Engine de Poitrine。

    フロアが静まり返る。

    誰も踊らない。

    ただ見ている。

    音を。

    空間を。

    時間を。

    まるで建築物を見るように。

    EP-133

    《 WARNING 》

    《 STRUCTURAL AUDIO DETECTED 》

    《 MUSIC CLASSIFICATION FAILED 》

    Theo Parrishが小さく頷く。

    「これは曲じゃない」

    「建物だ」

    歓声。

    拍手。

    笑い。

    全部消える。

    残るのは巨大なグルーヴだけ。

    そして。

    突然。

    画面下部にニュース速報のような文字が流れる。

    《 RUMOR DETECTED 》

    《 UNCONFIRMED SOURCE 》

    《 FUJI ROCK FESTIVAL NEGOTIATION IN PROGRESS 》

    会場がざわめく。

    「嘘だろ」

    「フジロック?」

    「まさか」

    「誰情報だよ」

    EP-133

    《 SOURCE UNKNOWN 》

    《 CREDIBILITY: 47% 》

    《 INTERNET RUMOR CASCADE ACTIVE 》

    SNSが爆発する。

    Discord。

    Mastodon。

    Reddit。

    匿名掲示板。

    Bandcampコメント欄。

    誰も確証を持っていない。

    だが。

    噂だけが増殖していく。

    Engine de Poitrine。

    フジロック出演。

    本当か。

    嘘か。

    誰も知らない。

    しかし。

    その噂は妙にリアルだった。

    なぜなら。

    今この瞬間。

    会場にいる全員が思ったからだ。

    「見たい」

    と。

    DJ Nobuが笑う。

    「苗場であれやったらヤバいな」

    Theo Parrish。

    「朝5時のホワイトステージで見たい」

    MONDO GROSSO。

    「雨が降ったら完璧だ」

    会場爆笑。

    EP-133が最後のメッセージを表示する。

    《 POSSIBILITY ACCEPTED 》

    《 FUTURE EVENT GENERATED 》

    《 FUJI ROCK TIMELINE CREATED 》

    《 STATUS: WAITING FOR REALITY TO CATCH UP 》

    白いカーソルが点滅する。

    _

    誰も入力しない。

    だが。

    どこかの誰かが。

    もうブッキングのメールを書き始めている。


     
     
    川崎駅においてきたもう一人の自分の影を探している木曜日。 あのまま、あの街にいたら今頃は違う並行世界の分岐点でレコードを探しているだろう。 今は懐かしいあの頃の自分を見つめながら書くストーリー。 ブレイクビーツバンド、「DRUM MACHⅢNES」のリーダーとして活動中。

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