
#シロクマ文芸部 借りた本〜あなただけが知っている〜
#シロクマ文芸部
お題『借りた本』
借りた本は時間を貸した。
返却期間が近づき、帰ってきた本。
本を手に取る。
読む時間がなくテーブルに置かれたままだった時間。
鞄の中にしまい込んで読まれなかった時間。
車の中で置き去りにされ、窓の外ばかり眺めてた時間。
「この子(本)は何を思っただろう?」
パラパラとページをめくり、最後のページ。
奥付にある、ISBNコード。
この子の身分証明書。
発行日。
出版社。
版数。
数字と文字が並んでいる。
本にも生まれた日がある。
生まれた場所がある。
返却カードの欄には返却日が記されていて、数年越しに、または続けて借りられた日付が並んでいる。
私は、その日付を眺めるのが好きだ。
けれど、一ヶ所だけ空白がある。
三十年前のその日だけ、返却日がない。
「この子、なにかあったのかな?」
返却されたこの子達には、
タバコの臭いや、鉛筆の跡に消しゴムのカス、何かのシミや破れ。傷を抱えて返ってくる事がある。
だけど、この子はそんな形跡がなく、貸出日はあっても返却日が記されていなかった。
ISBNコード、その数字をスマートフォンに打ち込んだ。
本の情報が出てくると思っていた。
検索結果に表示されたのは、本の情報ではなく、
三十年前の新聞記事。
あなたは、あの日。何をみたの?
そしてーー
どうやって帰ってきたの?
誰に、時間を貸したの?
作成の裏
皆さんは、本の最初から読みますか?後ろから読みますか?
私は、後ろから。
つまり、奥付を先に読みます。
「この本はいつ生まれたんだろう」
「何回、増刷されたのだろう」
「これまで、どれくらいの人の手に渡ったのだろう」
そんな事を考えるのが好きです。
選んだ一冊が、長い旅をして誰かから誰かへと愛され続けていると思うと、きゅんとしますね!
そこから、始まったショートストーリーです。
『田原にかさんの毎週ショートショート》より
作成の裏と照らし合わせて読むと面白いかも?