
異文化感受性理解を「ワークショップのしくみ」として取り入れる方法
Milton J. Bennettの「異文化感受性発達モデル」(The Developmental Model of Intercultural Sensitivity)をもとに、ワークショップへのしくみ化を考えてみます。
Milton J. Bennettの「異文化感受性発達モデル(DMIS)」は、人が文化の違いをどのように理解し、受け入れていくかを6つの段階で説明しています。
人は「自分の文化が中心だ」と考える段階(エスノセントリズム)から、「文化の違いを尊重できる」段階(エスノレラティビズム)へと成長します。

(The Developmental Model of Intercultural Sensitivity)
つまり、
👉 「違いを見ない」→「違いを恐れる」→「違いを認める」→「違いを活かす」
という成長の流れを示したモデルです。
🧭 Bennettの論文における発達の考え方
「連続体(continuum)」としてのモデル
BennettはDMISを「a continuum of stages of personal growth(個人の成長の連続体)」として提示しています。
つまりこれは、固定的な分類ではなく、「発達の流れ」を示すものであり、人が時間と経験を通じて段階を行き来することもあることを前提にしています。
段階を「診断(diagnosis)」するという考え方
彼はこのモデルを「その人が今どの段階にいるかを診断し、そこに合った支援を行うための道具」として説明しています。
この「診断」という言葉は、固定ではなく状態を観察し、支援によって変化しうることを意味しています。
“to diagnose the level of sensitivity of individuals and groups and to sequence material according to a developmental plan.”
「退行(regression)」の可能性を示唆する部分
論文の後半(Part 2)では、トレーニング時に「前の段階に戻ってしまう」現象が明確に記述されています。
たとえば、防衛(Defense)段階にいる人が、より複雑なテーマに出会って混乱し、再び否認(Denial)に“retreat”することがあると書かれています。
“Care should be taken that this confusion is simply acknowledged and not prematurely eased by retreating to earlier ethnocentric states.”
(この混乱を正面から受け止め、早まって以前の民族中心的な段階へ戻らないよう注意すべきだ。)
つまりBennett自身、人は新しい経験やストレスによって、以前の段階に戻ることがあると明言しています。
ファシリテーションの目的は「揺れを支えること」
Bennettは、発達を促すトレーニングは、単に次の段階に押し上げるのではなく、その人が混乱や不安を感じながらも「一歩進み、また戻りながら理解を深める」よう支援するものだと述べています。
“facilitators should ‘push’ discussion a little… movement can be best assured by providing accomplished intercultural facilitators.”
発達は一方向ではなく、行きつ戻りつする
Bennettのモデルは、あくまで「発達の方向性」を示すものであり、
人は経験によって一時的に後退することも、状況によって複数の段階の要素を同時に持つこともあります。
したがって:
・DMISは直線的な階段ではなく、波打つ成長曲線のようなもの。
・人は新しい文化や立場に出会うたびに、「否認〜統合」の間を行きつ戻りつしながら成熟していく。
・ファシリテーターや教育者は、その揺れを自然な成長の一部として支えることが重要。
🧭 異文化感受性を「ワークショップのしくみ」として取り入れる
1.参加者の「段階」を意識する
Bennettのモデルを使って、参加者がどの段階にいるかを観察し、その段階に合った体験を設計します。 否認・防衛の段階:まず「存在を知る」「出会う」体験を。例:多様な人の語りを聞く、文化や性の違いを安全に可視化する展示など。 最小化の段階:「みんな同じだよね」ではなく、「違いの意味」を考えるワークを。例:同じ状況でも人によって感じ方が違うロールプレイ。 受容・適応の段階:対話や共創活動を。例:LGBTQの人と一緒に新しい制度やサービスを共に考える。
2.「安全な場(セーフスペース)」をつくる
多様性について話す場では、恥をかいたり攻撃されたりしない「心理的安全性」が必要です。
・ルール例:「否定しない」「まず聞く」「経験を一般化しない」
3.「体験→内省→共有」の流れを設計する
理解は頭だけでなく体験から生まれます。
体験:違いを感じるワーク
(例:多様な視点で絵を描く、聴覚・視覚の制限を試す)
内省:そのとき何を感じたか書く・話す
共有:他者の気づきと比べて「多様な見方」を体験的に理解する
4.ファシリテーターは「段階をつなぐ橋渡し役」
一足飛びに「多様性を受け入れよう」と押しつけるのではなく、
参加者の段階を尊重しながら、少し先に導く「発達支援者」として関わります。
参考文献
BENNETT,M.J. (1986) A DEVELOPMENTAL APPROACH TO TRAINING FOR INTERCULTURAL SENSITIVITY. International. Journal of Intercultural Relations 10, no.2: 179-95.