
第294話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『墨のにおいの手習い帳』
リクちゃん、字を書くの、好きかい?
鉛筆でも、筆でもね、字にはその人らしさが出るもんなんよ。
今日はね、蔵から出てきた古い手習い帳の、ふしぎなお話をしようかね。
むかし話
むかーしむかし、あるところに、トモという男の子がおったそうな。
トモのうちには、古い蔵があった。
何代も前からの、いろんなものがしまってある、大きな蔵じゃった。
ある日、トモが蔵の片づけを手伝っておると、古い木箱の中から、一冊の帳面が出てきた。
ずいぶん古びて、紙も茶色くなっておる。
表紙には、かすれた字で「手習い帳」と書いてあった。
「これは、なんじゃろう」
トモが父に聞くと、父は懐かしそうに言うた。
「それはな、お前のひいじいさんが、子どものころに字の練習をした帳面じゃ」
トモは、その帳面を、そっと開いてみた。
すると、ふわっと、墨のにおいがただよってきた。
何十年も前のものなのに、まだ墨のにおいが残っておったんじゃ。
帳面には、ひいじいさんが練習した字が、びっしりと並んでおった。
最初のページは、たどたどしい、下手な字。
ページをめくるにつれ、だんだんと上手になっていく。
トモが、その字を指でそっとなぞったとき。
ふしぎなことが起きた。
トモの指先に、筆を持つ手の温もりが、じんわりと伝わってきたんじゃ。
一生懸命に筆を握る、小さな手。
うまく書けなくて、何度も練習する、その息遣い。
上手になりたいと願う、まっすぐな気持ち。
会ったこともない、ひいじいさんの子ども時代が、その字を通して、トモに伝わってきたんじゃ。
トモの胸が、じんと温かくなった。
「文字にはな、書いた人の息遣いが宿るんじゃ。墨のにおいとともに、その人の心や温もりまで、残っておるもんなんよ」
トモは、その手習い帳を、大切に取っておいた。
そして、トモも、字の練習をするときは、心を込めて書くようになった。
いつか、自分の字も、誰かに温もりを伝えるかもしれん。
そう思うと、一文字一文字が、大切に思えたんじゃ。
ひいじいさんの手習い帳は、今も、トモの家に大切にしまわれておるそうな。
墨のにおいと、温もりを残したままで。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん。
ひいじいさんの字にはね、その人の息遣いや温もりが、宿っておったんよ。
字ってね、ただの記号やないんじゃ。
書いた人の気持ちや、人柄が、ちゃんと表れるもんなんよ。
リクちゃんも、字を書くとき、心を込めて書いてみてくれんかね。
ていねいに書いた字には、リクちゃんの優しさが、宿るけんね。
そしていつか、その字が、誰かに温もりを伝える日が来るかもしれんよ。
そいぎ、今日はここまで
リクちゃん、今度手紙を書くときは、心を込めて書いてみるといいよ。
受け取った人に、リクちゃんの気持ちが、ちゃんと伝わるけんね。
ばあちゃんも、リクちゃんからの手紙を、楽しみにしとるよ。
そいぎ、おやすみ。
もし少しでも心に響いたら、スキ♡やフォローをしてくれると、ばあちゃん若返る気がするよ。
皆様からの反応が、これからの物語を紡ぐ力になります。