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新潟の雁木から東南アジアの騎楼へ 〜軒下歩道文化試論〜

    1 雁木の町並み〜新潟県〜

     新潟県内には、雁木(がんぎ)の町並みがあります。
     雁木造(がんぎづくり)とは、雪や雨の日の通行機能を確保するため、建物の庇(ひさし)を長く張り出して、下を通路として作り出した建築様式を指します(wikipediaより)。

     新潟県のなかでも、上越市高田は、間口が狭く奥行きが長い町家形式の町並みで、全長約13kmにわたって、雁木が連続しています。 
     上越市高田は、豪雪地域です。雁木は、豪雪の冬季に、連なる町家の生活通路を確保するために設けられたものです。

     雁木は、私有建物の構造の一部であり、雁木の下の通路は私有地です。
     雁木は、「人々がお互いに私有地を提供し合い、「ゆずり合い・助け合い」の精神で生きる雪国人の「心のシンボル」でもあります」(『雁木の歩き方』より)。

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    上越市高田の雁木の町並み。雁木の通路に水道メーターの蓋などがあるのは、私有地だからだと思います。
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    造り付けのはしごが常設されているのが特徴的です。

     雁木造には、連なった民家がそれぞれに1階部分の軒を延長して庇を道路側に突き出す方式(差し掛け式雁木、落とし式雁木)や、雁木の上にせり出した2階部分を持つ方式(造り込み式雁木)など、いくつかの形態があります。

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    旧今井染物屋住宅(中央の黒い建物)。2階部分が通路部分にせり出した「造り込み式雁木」。
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    雁木の家の側面が露わになった部分。間口が狭く奥行きが長い町家型式。
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    2 新潟の「雁木」から東南アジアの「騎楼」へ

     ところで、雁木の町並みを歩くと、東南アジア方面にある、類似の機能を持つ建築様式を思い出します。

     「騎楼」(きろう)というものです。

     騎楼は、主に華南地域・東南アジア一帯に見られる回廊式の建築様式の一種です。建築物1階の街道に面した部分に半公共的なスペースを設け、その上に2階部分が張り出されます。同様の建物が連続することで、街道の両脇には雨風を気にせず通行できる半屋外空間が生み出されます。2階部分が1階に「乗っかっている(騎)」ように見えることから、「騎楼」と称されます(wikipediaより)。

     次項からは、筆者が2010年代に訪れた東南アジア方面諸地域の、騎楼の町並みを紹介します。

     どの地域にも共通するのは、中国人や華人(中国以外の地域に定住した中華系の人びと)の文化が根付いた地域ということだと思います。
     また、騎楼の建物は、西洋建築の意匠が採り入れられ、華洋折衷のエキゾチックな雰囲気です。

    3 マレーシア(ペナン)

     マレーシア北部のインド洋側にあるペナン島は、華人の多い地域です。
     ペナンの中心地ジョージタウン市街地は、道路沿いの建物の多くが騎楼建築になっています。
     騎楼で覆われた歩道と、車道の間に、溝(排水路)があるところがよく見られます。歩道から車道に出ようとして、水路に落ちないよう注意が必要です。

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    騎楼の歩道
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    騎楼の歩道から車道をみる。
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    歴史を感じる古びた騎楼建築が多く見られます。
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    海南鶏飯(ハイナンチキンライス)のレストランも騎楼建築。

     取り壊しなどで、建物の連続が切れて側面が露わになっているところを見ると、歩道部分に空間がつくられているのがよく分かります。
     ペナンの騎楼建築は、間口が狭く奥行きが長い町家形式で、新潟県上越市高田の町家や、京町家によく似ています。

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     町家建築でなく、比較的大きなコロニアル建築(西洋風の植民地様式建物)も、軒下に通路を設けています。

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    角地の騎楼建築。右奥の建物はホテルで、ここに宿泊しました。

    4 シンガポール

     シンガポールでは、19世紀の都市計画において、各住宅が「連続した屋根付きの通路」を形成すると規定されたことにより、写真にあるような町並みが形成されたようです。また、「騎楼」建築は、シンガポールの影響を受けて発展した建築様式という説があります(wikipedia「ショップハウス」の項による)。
     写真は、カトン地区あたりの、騎楼建築です。カラフルなプラナカン建築が、写真映えスポットとして有名な地区です。
     歩道は、建物側半分が騎楼の下になっていて、車道側半分のスペースには、軒がありません。

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    騎楼の外側の赤茶色部分も、歩道になっています。
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    角地の騎楼建築。柱の間に鉢の植木が置いてあります。この建物は、騎楼の下を、完全な公共通路というより、店の軒先と位置づけているのかもしれません。
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    隣り合った騎楼は、ツライチにならず出っ張りに差があるものもあります。

    5 台湾(台北)

     台北の迪化街のあたりの騎楼建築です。迪化街は、レトロな町並みが観光名所になっています。 
     台湾では、騎楼は「亭仔脚」とも呼ばれ、日本統治時代から現在まで、道路沿いの建築物には騎楼を設けるよう、法令に規定されているそうです(wikipedia「騎楼」の項による)。

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    台湾の騎楼は、建物側半分が騎楼の下で、車道側半分のスペースには軒がなくバイク置き場になっているものが多い印象です。シンガポールに似ています。

    6 香港

     香港は、香港島のトラム路線が走る通りや、九龍半島を南北に貫く彌敦道(ネイザンロード)は、雨天でも傘が不要なところが多い印象です。
     騎楼建築が残っているほか、上層階が歩道にせり出しているビルや、ビルから歩道に庇が伸びているところがあるからです。

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    トラムの走る道路両側の建物、3階が歩道にせり出しています。
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    よく見ると、歩道に庇を伸ばす建物、騎楼型式のものなど、建物によって様々です。
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    2階以上が歩道にせり出した建物。
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    5階以上が歩道にせり出した建物。
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    歩道から見上げると、歩道に庇がかかっています。
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    角地の建物にも庇あり。
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    有名な茶餐室(喫茶店)も、その店室部分は歩道にせり出したかたちです。
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    夜になると、歩道を覆う軒下に照明が灯って、お店の看板と歩道を照らします。


    7 ベトナム(ホーチミンシティ・参考)

     道沿いの商店は、1階の売り場が歩道に面していて、店の前を通れば庇の下を通れますが、そこには商品やバイクが置いてあります。騎楼建築のつくりにはなっておらず、街路樹が日差しや雨を防いでくれます。
     もっとも、歩道に軒を差し出した建物もあります。

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    ホーチミンシティの典型的な道路景観。1階が商店の建物が連なって建ち、街路樹が店先に木陰をつくっています。
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    商店は、ちょこっと軒を出すだけで、歩道を覆っていません。
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    大きな建物には、庇が歩道を覆うものもあります。ちょうど、急な雨が降ってきたときの写真。
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    ベトナム戦争下で海外特派員の拠点となったことで有名なレックスホテル。歩道に軒が差し掛かっています。

    8 おわりに

     建物の軒下を通路にして、天候の影響を受けずに歩行するという点で、新潟県の雁木と、東南アジアの騎楼は、形態と機能がとてもよく似ていると思います。
     道路沿いの建物の軒下は、建物が個人所有であるにもかかわらず、軒下の通路部分は、その土地が個人所有か公有かを問わず、誰もが歩行できる公共の空間として利用されるところも共通しています。
     もっとも、新潟の雁木の町並みは、人々が私有地を提供し合う、雪国人の共助の精神で形成されたものである一方、東南アジアの騎楼の町並みは、植民地時代の法令の規律に従って形成された側面も大きいようです。
     雁木と騎楼は、「軒下歩行」という共通の視点をもって、いろいろな比較ができそうです。

    【補足】
     香港、台湾は、東アジアの南部に属していて、東南アジアとはいえませんが、便宜「東南アジアの騎楼」という標記をしています。 
    【写真の撮影年月】
    ・新潟(2024.6〜2026.1)
    ・マレーシア(2019.7)
    ・シンガポール(2019.8)
    ・台湾(2013.8)
    ・香港(2012.8、2015.8)
    ・ベトナム(2011.8)
    【参考文献】
    小柳淳『香港ストリート物語』(2012.5)
    林蔓莉・王新源『香港騎樓』(中華書局2015.5)

    おわり

     
     
    鉄道廃線跡探訪、アイドル、手芸、真空管ラジオ修理など、実体験を記事にしています。

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