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Photo bynanadays

【ショートショート】トリオ式

     今日は中学校の入学式だ。体育館に新入生とその父兄が揃っている。
    「諸君は多動性障害である」
     と校長先生一は言った。言ったまま、スマホの画面に没頭してしまったので、後ろに控えていた校長先生二が言葉を続けた。
    「むかし、多動性障害は欠陥と見なされていたが、ある時期から急激にその割合が増えた。すでに人類の95パーセントが多動性障害である」
     そこまで喋って、校長先生二は唐突に下手に去って行った。なにか忘れ物を思い出したらしい。
    「いまでは不注意や落ち着きのなさ、うっかりミス、喋りすぎなどは世の中の当たり前になった。ほかの場所と同じように本中学校でも、三人一組のチーム制をとる。勉強も遊びも三人で協力して、仲よく行ってほしい。以上です」
     校長先生三が挨拶を終えると、バラパラと拍手が起こった。すでに会場はぐちゃぐちゃで、生徒も父兄もみんな席から離れて自由に歩き回り、私語をしている。
     それぞれのクラス担任が子どもをかき集めて、教室に連れ込んだ。もちろん、担任も三人いる。
    「担任一、タナカ」
    「担任二、ゴトウ」
    「担任三、サトウ」
    「われわれが君たちの担当だ。それでは、君たちもグループ分けするぞ」
     ぼくはカトウジュンヤとヤマギシリョウタとトリオを作り、熊さんチームと名乗ることになった。
    「中学生にもなって熊さんかよ」
     とジュンヤが言った。
    「熊といえば」
     とリョウタが上野動物園の話を始めた。話が長い。
    「じゃ、帰ろうか」
     とジュンヤが言った。
    「ちょっと待て。まだ教科書をもらってない」
    「センセー、教科書はどうしたの」
    「あ」
     と担任が三人揃って叫んだ。
    「ちょっと待ってなさい」
     先生たちがなんとか大きな段ボール箱を抱えてもどってきたとき、生徒は半分に減っていた。
     リョウタの姿もなかった。結局、ぼくはふたり分の教科書をなんとかリュックに押し込み、リョウタの家に向かった。
    「おまえ、教科書ないだろ」
    「あっ。しまった」
     ふたりで次の日の時間割を確認して別れたが、次の日、ぼくは時間割を見つけることができなかった。まあ、いいや、適当に入れて行こう。
     三人合わせて数学、体育、音楽の教科書しかなかった。
     トリオシステム、ほんとに役に立つのかな。

    (了)

    目次

     
     
    ショートショートを書く人。毎日、一作ずつ書いて、夜にClubhouseのルーム「ショートショートの朗読と雑談と」で朗読しています。よかったら、聞きに来てね。本職はフリーライター。好きな著名人は筒井康隆、色川武大、草彅剛、壇蜜など。

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