
紫色の巾着袋|拝啓文芸部|落とし物の持ち主
コンビニに用事があって外に出ると、家の前に『紫色の巾着袋』が落ちていた。
早朝にゴミ出しに出た時にはなかった。
まだ、落としたばかりだと思われる。
紫色のサテンの生地で出来た、その袋の中を覗いてみると、
紫色の帽子を斜めに乗せた、ぬいぐるみのネコの顔が見えた。
その巾着袋を全て裏返すと、
丁寧な細工が施された、貴婦人を思わせるドレス姿になっていた。
しかも、袋状にした時にネコの足が隠れるように、底の部分が二重になっている。
こんなに可愛いのに、このような複雑な作りにしてまで、巾着にする必要があるのだろうか?
でも、これを落としたことに気付いたら、さぞかしショックだろうなあ…。
交番に届けた方がいいだろうか?
いや、帰る時に、朝、通った道を探すかもしれない。
とりあえず、濡れないように透明なビニール袋に巾着袋を入れ、目立つ場所に置いておいた。
…転がってしまわないだろうか?
ちょうどいいサイズの段ボールがあったので、
蓋の部分を切り取って祠状にして、その中に置いてみる。
…段ボールに直置きではかわいそうだ。
畳んだハンドタオルを箱の中に敷く。
…段ボールだと、地味だろうか?
小さな段ボールの周りに、家にあったセロファンの折り紙を貼ってみた。
…暗くなったら目立たないかも。
あとで、小型の懐中電灯でもセットしておくか。
気がついてくれればいいけど…。
夕刻、外で自転車のブレーキ音がした。
外の様子をモニターで見てみることにした。
若いサラリーマンの男性…?
変な目立ち方をして、落とし物の持ち主でない人が持っていこうとしているのかも…!
慌てて外に出ようとすると、
その男性が巾着袋の中から現れたネコの貴婦人を胸の辺りで抱きしめるのがモニターに映った。
あ……
すると彼は、ドアに向かって深々と頭を下げ、
大事そうにリュックにしまうと、自転車で走り去っていった。
明日の朝までに、取りに来てくれなければ、交番に届けなくてはいけないかと思ってた。
…何はともあれ、これで肩の荷が降りた。