
「日本人よ、もっと寝よう。」「睡眠不足で年間20兆円の損失?」
寝る間も惜しんで働く時代は終わり。日本経済を復活させる鍵は「睡眠」にある?
「昨日、何時間寝た?」
こんな会話をしたとき、「いや、昨日は3時間しか寝てないよ」「最近忙しくて全然寝てないんだよね」と、睡眠不足をアピールする人はいないだろうか。
学生時代を振り返っても、テスト前に「昨日は徹夜した」と自慢するような空気があった。
社会人になってからも同じだ。
寝る間を惜しんで働く。
睡眠時間を削って仕事をする。
休む時間があるなら仕事をする。
いつの間にか、睡眠を削ることが努力や勤勉さの象徴になってしまっている。
しかし、本当にそれでいいのだろうか。
私は最近、NewsPicksの睡眠に関する対談企画を見て、改めて考えさせられた。
そこで語られていたのは、睡眠は仕事の邪魔になるものではなく、むしろ仕事の一部として考えるべきだという発想だった。
これは、日本人がもっと真剣に考えなければならないテーマだと思う。
日本人の睡眠時間は世界でも最短水準
まず、感覚的な話ではなく、データを見てみたい。
OECD(経済協力開発機構)の国際比較データを紹介したNTTデータ経営研究所のレポートによると、日本人の平均睡眠時間は約7時間22分。
調査対象33か国の中で最も短いという結果だった。
一方、調査対象国の平均は約8時間28分。
つまり、日本人は国際平均と比較して、1日当たり約1時間も睡眠時間が短い計算になる。
もちろん、各国の調査年や調査方法には違いがあるため、単純比較には注意が必要だ。
それでも、日本人の睡眠時間が国際的に見て短い水準にあることは間違いない。
参考:NTTデータ経営研究所「日本人の睡眠は足りていない?」(2024年11月25日)
睡眠不足による経済損失は約20兆円
さらに驚くべきデータがある。
アメリカのシンクタンクRAND研究所が2016年に発表した調査では、日本人の睡眠不足による経済損失は年間約1,380億ドルと推計されている。
1ドル150円で換算すると、約20兆円だ。
この試算は、睡眠時間が6時間未満の労働者が適正な睡眠時間とされる7〜9時間を確保できた場合に、どれだけの経済損失を防げるかという考え方に基づいている。
約20兆円。
これは相当な金額だ。
現在、日本では消費税の減税についても議論されている。
仮に消費税減税による税収への影響と比較して考えてみると、睡眠不足によって失われている経済的価値が、いかに大きいかが見えてくる。
もちろん、睡眠不足による経済損失が、そのまま国の税収として回収できるわけではない。
また、20兆円は税収ではなく、生産性などの観点から推計された経済損失だ。
それでも、国民が十分な睡眠を取ることによって、日本経済に大きなプラスの影響が生まれる可能性があるという点は、もっと注目されていいと思う。
さらに、2026年9月に紹介された野村総合研究所(NRI)の調査では、日中の過度な眠気による労働生産性の経済損失も年間約19.8兆円と推計されている。
こちらはRANDの試算とは別の調査であり、単純に足し合わせることはできない。
しかし、睡眠時間だけでなく、日中に頭が働く状態を維持できているかという問題も、日本の経済に大きく関係していることが分かる。
参考:ITmedia ビジネスオンライン「日中の過度な眠気による経済損失は年間約19.8兆円」(2026年9月2日)
「寝る時間を削る」から「寝た上で仕事をする」へ
今回の対談で特に印象に残ったのは、仕事と睡眠の優先順位についての考え方だ。
多くの日本人は、仕事が忙しくなると睡眠時間を削ろうとする。
仕事が終わらなければ、寝る時間を減らす。
翌朝早く起きて仕事をする。
休日も仕事をする。
しかし、本来は逆なのではないだろうか。
まず、必要な睡眠時間を確保する。
その上で、残された時間を使って仕事をする。
つまり、睡眠を削って仕事の時間を作るのではなく、睡眠を確保した上で仕事の生産性を高めるという発想だ。
睡眠不足の状態で長時間働いても、集中力や判断力が低下してしまえば、結果的に仕事の効率は悪くなる。
長時間働くことと、成果を出すことは必ずしも同じではない。
むしろ、短時間でも集中して質の高い仕事ができる人の方が、これからの時代には評価されるべきだと思う。
この悪しき価値観を子どもたちに引き継いではいけない
私がもう一つ強く感じているのは、子どもたちへの影響だ。
私たちの世代には、睡眠時間を削って頑張ることが美徳であるかのような価値観があった。
そして、その価値観は親から子へ、先輩から後輩へ、社会から若い世代へと受け継がれている可能性がある。
もちろん、若い世代が実際にどの程度そうした価値観を持っているのか、私は調査したわけではない。
ただ、だからこそ今のうちに変えていかなければならないと思う。
特に子どもたちは、大人以上に睡眠が重要だ。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、推奨する睡眠時間の目安として、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間が示されている。
成長期の子どもたちにとって、睡眠は単なる休息ではない。
心身の成長や脳の発達を支える大切な時間だ。
勉強を頑張るために睡眠時間を削る。
部活動を頑張るために睡眠時間を削る。
そんな価値観を、私たち大人が子どもたちに植え付けてはいけない。
頑張ることと、寝ることは対立しない。
むしろ、しっかり寝ることも努力の一部なのだと伝えていきたい。
睡眠を大切にする社会こそ、生産性の高い社会ではないか
日本経済を復活させるために、私たちは何をすべきなのだろうか。
新しい産業を育てることも必要だろう。
AIやテクノロジーを活用することも重要だ。
働き方改革も必要だと思う。
しかし、もっと基本的なところに目を向けてもいいのではないだろうか。
それが睡眠だ。
国民が慢性的な睡眠不足に陥り、日中の集中力や判断力が低下しているのであれば、それだけで社会全体の生産性を押し下げている可能性がある。
企業も、社員が長時間働いていることを評価するのではなく、限られた時間でどれだけ成果を出せているかを評価するべきだ。
そして、私たち一人ひとりも、睡眠時間を削ることを努力の証明にするような考え方から卒業しなければならない。
7時間、8時間といった必要な睡眠時間を先に確保する。その上で、仕事や勉強の時間を考える。
この順番に変えるだけでも、日々の生活は大きく変わるかもしれない。
睡眠は仕事が終わった後に余った時間でするものではない。
仕事の成果を生み出すために必要な時間なのだ。
「寝る間も惜しんで頑張る」という価値観から、「しっかり寝て、効率よく成果を出す」という価値観へ。
私は、この意識改革こそ、日本社会に必要なことの一つだと思っている。
まずは大人から変わろう。
そして、子どもたちには睡眠を削ることが努力だという価値観を引き継がせないようにしたい。
日本人よ、もっと寝よう。
それは決して怠けることではない。
自分の健康を守り、仕事の質を高め、ひいては日本経済の未来を考えることでもあるのだから。
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参考資料・出典
* NTTデータ経営研究所「日本人の睡眠は足りていない?」
* RAND Corporation:Why Sleep Matters—The Economic Costs of Insufficient Sleep
* 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
* ITmedia ビジネスオンライン:日中の過度な眠気による経済損失
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