
洞の目 - 落とし物の持ち主 | 掌編小説
「死神さん、何か落としましたよ」
と、天使が声をかけて手に光る珠を差し出しながら
にこやかに笑顔を向けた。
死神は、面倒くさそうに天使を一瞥し
「ああ、それは落としたんだ」
と応えた。
「死神が、これを落とすとかどういうこと?」
死神は、その光の珠を眺めながら
「ちょっとした 気まぐれだ。
そこに落としておいてやってくれ」
と静かに言った。
「いいけど。理由が聞きたいな」
「ああ____。
そいつは、自ら命を絶とうとしたんだが、
記憶を抜いて置いておくことにした」
「え?予定では回収するつもりだったんでしょう?」
「まぁな____。
そいつは、小さいころから親に気に入られたいという一心で自分を殺して時を過ごした。
そして、学校では教師や友達に気に入られたいという枷も増やした、社会に入れば上司や同僚も同じくだ。
どんな理不尽にも耐え、人の顔色を窺い、最適解で応えては一喜一憂する人生を送っていた。
だから、中身は空っぽだ。
何を自分が好きなのかすら、本人はわかっていなかっただろうよ。
そして、いいように使われて、欺かれ、捌け口にされ、
しまいには病んだ。
しかも、こいつは水に入って死のうとする間際に、俺を見て『来てくれてありがとうございます』って嗤ったんだ。
洞の目の下の口を にいっと曲げて。
その目の暗闇が深すぎて、こいつをリセットしたらどうなるのか見たくなった。
だから、記憶を消して落とした。
まぁ、気まぐれだ」
「そんなことして、いいの?」
「ダメだろうな」
「ふーん、そうなんだ」
「だから、その辺に落としといてくれ。
また時期が来たら拾うさ」
「先生、意識戻りましたー」
「わかりますか? わかりますか?
お名前言えますか?」
「____いえ、わかりません。
僕は誰ですか?」
この作品は、拝啓文芸部 ・今週のお題(宛先) [ 落とし物の持ち主 ] に 掌編小説 で お邪魔させていただきました。
続編を書きました。
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