
【遠距離恋愛、連載】(夏の章)第1話「ずっと一緒だと思っていた」
彼女を失い、愛を失い、それでも結婚した10年、第1話

あの頃の私は、何も知らなかった
あの頃の私は、疑うことを知らなかった。恋は、終わらないものだと信じていた。
終わりは、喧嘩をした先に訪れるものだと思っていた。
だから、何も起きていない私たちが終わるなんて、一度も考えたことがなかった。
私の隣には、いつも理恵がいた。
大学のサークルで出会った、一つ年下の後輩。
初めて話した日のことは、今でもよく覚えている。
少し人見知りで、最初は控えめに話すのに、ふとした瞬間に見せる笑顔だけは、不思議なくらい周りの空気をやわらかくした。
気づけば、その笑顔を探すようになっていた。
やがて、自分から想いを伝えた。
理恵は少し驚いたように笑い、静かに頷いてくれた。
それが、私たちの始まりだった。
特別な恋ではなかった。
授業の合間に他愛もない話をして、帰り道を並んで歩く。
休日には、目的もなく街を歩いた。
何気ない毎日の積み重ねが、幸せだった。
大きな喧嘩もなかった。
無理をしているつもりもなかった。
だから、終わりだけは想像できなかった。
やがて私は大学を卒業し、社会人になった。
生活のリズムが変わり、会える時間は少しずつ減っていく。
それでも、不安はなかった。
週末に会い、近況を話し、笑って別れる。
そんな日々が、この先も続いていくのだと信じていた。
「そのうち結婚するんだろうね」
そんな言葉を交わしたことはない。
それでも、お互いにそう思っていると信じていた。
少なくとも、私は。
会えない時間が増えるほど、相手の日常は少しずつ見えなくなっていく。
それを私は、「大人になったからだ」と思っていた。
いや――。
そう思い込もうとしていただけなのかもしれない。
小さな違和感は、きっとあった。
忙しさのせい。
タイミングのせい。
そうやって、一つずつ見過ごしていた。
あの頃の私は、まだ知らなかった。
距離は、静かに人の心を変えていくことを。
そして。
何も起きていないと思っていた恋ほど、ある日、何の前触れもなく終わりを迎えることがあるということを。
あの日、もし違う選択をしていたなら。
その問いを抱えながら生きた、十年の物語がここから始まる。
第2話へ続く
※次回以降、毎週水曜・土曜日に更新予定です。
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【マガジンを作りました、過去の話はこちらから】
「四季を越えて愛」(総集編)
「遠距離恋愛、10年の軌跡、夏の章」
「遠距離恋愛、10年の軌跡、秋の章」
順次公開
「遠距離恋愛、10年の軌跡、冬の章」
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「遠距離恋愛、10年の軌跡、春の章」
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