メインコンテンツへスキップ
見出し画像

桜咲く季節になると、思い出すこと

    春うらら。

    わたしの住むアメリカの地でも、いまは春真っ盛り。植物が日に日に息を吹き返しています。

    この辺りでよく見る桜は、日本で馴染みのソメイヨシノのような可憐な花をつけます。違うのは、花びらのピンクが、限りなく白に近いこと。わたしは植物に詳しくないので、種類の名前がよくわからないのですが、いずれにしても、いまはもう花が散って、葉桜になってしまいました。

    そんな中、ひと際存在感を放っているのが八重桜です。うちの近所にも、庭に植えておられる家がいくつもあります。

    八重桜という名前が、わたしは好きです。「やえ」という響きが。唇と舌がどこにも触れることなく、ぽかんとした口から出せる柔らかい音。手のひらに掴んだと思ったらすり抜けていくような所在なさがあります。でも、目を向けるとちゃんとそこにあるような。

    そんなふにゃっとした響きとは裏腹に、幾重にも重なる花の大きくて重厚なこと。ソメイヨシノのような儚さはなく、ステージの中央でスポットライトを浴びているような主役感を漂わせています。

    八重桜を見ると、いつも思い出すことがあります。

    いまから7年前、わたしは妊娠していました。いつも歩いて通る道沿いに、立派な八重桜がありました。まだ、アメリカに渡って間もなかったわたしは、桜を見るたびに日本を連想して懐かしんでいました。

    両親のこと、友達のこと、置いてきた仕事のこと、東京での生活…。

    結婚して、アメリカに渡り、仕事を離れ、子どもを妊娠して。生活が猛烈なスピードで変化していた時期です。アメリカでどんどん新しい生活を築いていくわたしに、それまでのわたしの日本での足取りを思い起こさせるのが、この八重桜でした。

    八重桜って、花が咲き始めるときに、密集した花々の陰から、所々に葉が覗きます。

    画像
    八重桜(寒山桜)Wikipediaより

    あるとき、丸っこいピンクの塊と緑の葉を見て、わたしは気づいてしまったんです。

    「あ、桜餅」

    八重桜の花は、遠目に見ると完全に桜餅に見えるということに。

    妊娠中は、とにかくお腹がすきます。でも、胎児が育ちすぎないように、体重をコントロールしなければならない。妊婦生活には、修行僧のような精神鍛錬が求められます。

    そんな日々に見つけてしまった桜餅。しかも、ここはアメリカです。桜餅なんて珍しい食べ物は、日系スーパーまで出向くか、手作りしない限り食べられません。そんな貴重な桜餅が、一本の木に千個?いや、もっといっぱいなってる!

    思わず立ち止まって、この桜餅の木をしばらく見上げていました。涎が出ていないか、口の端をそっと指で確認したくらいです。

    あれから7年。八重桜を見るたびに、わたしは日本というより、桜餅を懐かしんでいます。桜餅食べたい。

    なんのはなしですか。


    この記事は、少し前から気になっていた「なんのはなしですか」企画を意識して書きました。コニシ木の子さんの面白い発想のお陰で、一つ記事を書き上げることができました。ありがとうございます!


    Xもやっています。繋がってくださると嬉しいです。https://twitter.com/Matsumura_us

    画像
    12日目!


     
     
    アメリカ在住ライター。元国家公務員。アメリカ人と国際結婚し、渡米9年。日本とアメリカ、ふたつの社会を知るからこそ見える暮らし・子育て・文化について書いています。小学生二児の母。趣味はピアノとブラジリアン柔術。

    あなたへのおすすめ