
【エッセイ】月のうさぎ
月を見ることで、人は何を思うのだろう。
今日の月はどんな形だろうか。
あれは上弦の月だったか、
それとも下弦の月だったか。
中学時代の理科の授業で習った記憶を
朧気にも手繰り寄せながら、
夜空を見上げる。
一度だけ、月のうさぎが見えた日があった。
よく晴れ渡った夜で、
いつもより月が大きく輝いていた気がする。
月にうさぎがいると
本気で信じていたころもあった。
月を見ると、いつも不思議な気持ちになる。
同じ世界に存在しているはずなのに、
決して手の届かない場所。
けれど、人間は本気で目指せば、
実際に月へ行くことができるのだ。
月を見上げることと、
夢を見ることは、
どこか似ている気がする。
ただじっと月を見つめているだけでは、
そこには届かない。
夢を叶えるためには、
地の上に立ち、
前を向いて歩みを進める必要がある。
……けれど、最近、
目指しているはずの夢が、
急に分からなくなってしまった。
月のうさぎを信じていた頃のような
純粋な気持ちはもうなくなっていた。
自分に向いていると信じて
足を踏み入れた世界で、
私の身体も心も、疲れてしまった。
前日に気合いを入れて準備をしたのに、
ベッドから起き上がれなくなってしまった。
朝早く起きて、
夜遅くに帰って次の日の準備と、
その日の振り返りをご飯を食べながらする。
忙しない日々に身体が
追いつかなくなってしまったのだろう。
あんなに夢だと思っていたのに、
本気で叶えたいものではなかったのかもしれない。
私は何に向いていて、
これから何になれるのだろう。
目の前が真っ暗になって、
眠れない不安な夜。
外を歩き、ふと空を見あげた。
すると、空の月はいつも変わらず輝いていて、
私の底にある弱さを
すべて見透かしているように思えた。
上を向くだけじゃ足りない。
でも、
前を向く気力すら見失った今、
あの月はただ静かに、
私が再び歩き出すための目印として
そこに留まってくれている。
いつかその月にまた手を伸ばすまで、
待っていて。