
5年前の「よく見てくれる」と、今の「歯磨き」。19年目のPTが変わらず大切にしていること
5年前、患者さんに言われたこと
整形外科の外来リハで、リハ室を任されていた頃の話です。
物理療法中心の流れを、一人ひとりに合わせた運動に切り替えました。痛みだけでなく、帰りの交通手段や、生活の変化まで聞くようにしました。
しばらくして、こう言われるようになりました。
「よく見てくれる。前より良い」
「一人ひとりを把握してくれる」
特別な技術を足したわけではありません。変えたのは、運動の前に聞く時間でした。
今、回復期で感じていること
今は、1日3時間の訓練があり、運動療法はもちろん大切です。
それでも、私が大事にしている時間があります。
歯を磨く
顔を洗う、拭く
髭をそる
化粧水をつける
病院の中では、こうした身だしなみが後回しになりやすいです。誰かが悪いのではなく、各職種が時間に追われる、現場の構造の問題です。
でも、身だしなみが整うと、表情や姿勢が変わる瞬間があります。1日の活力と、人間らしさにつながると感じています。
5年前と今は、同じことでした
外来でも回復期でも、私がやっていることは同じでした。
その人の生活を知る
その人らしい習慣を、取り戻す手伝いをする
「患者」ではなく「その人」として向き合う
運動の質は追求します。同時に、人格を肯定する時間を、削らないようにしています。
ここから先は、実際にどう聞き、どう動作を見て、どう訓練に組み込んでいるかを書きます。
1. 聞く:生活背景の3つの軸
運動の前に、次の3つを聞きます。
時間:早く帰りたいか、待ち時間をなくしたいか
移動:帰りの手段(バス、送迎、運転)と、その制約
習慣:朝、何から始めていたか(髭、化粧水、身だしなみ)
「考えてくれていること」が伝わると、患者さんの表情が変わります。早く帰りたい人には、少ない種目で変化を出す設計に変えます。
2. 見る:洗面動作を、評価として使う
歯を磨く:立位の保持、手を口元まで上げる力、むせや疲れ
顔を洗う・拭く:前かがみの安定、両手の協調、タオルを絞る握力
髭をそる:細かい手の動き、剃り残しの左右差
化粧水:顔に手が届く範囲、力加減
動作を見ると、歩行や筋力のテストでは出ない、生活の中の動きが分かります。
3. 組み込む:時間を増やさず、生活を訓練にする(目安5から10分)個人差があります。
洗面台まで歩く(歩行練習)
立位で歯を磨く(バランス・耐久性)
洗顔、拭く(上肢・協調)
鏡で整える(姿勢の確認)
終わったら、一言の肯定を添えます。
「いつもの顔になりましたね」「今日はしっかり立てていました」
4. 共有する:多職種に短く伝える
「洗面はここまで自分でできます。ここは見守りが必要です」
この一言を、看護・介護に渡します。他の職種の時間を奪わず、できる動作を、生活の中で使ってもらう共有です。
5. つなぐ:退院後・外来・自費へ
聞いた背景と、見た動作は、そのまま次の場所に活きます。
退院後:家の洗面台の高さ、椅子、手すりの確認
外来:姿勢と動きの評価に、生活習慣を重ねて見る
家族への説明:「全部やってあげる」より、「声をかけて見守る」
6. 安全の注意点(必ず確認してください)
転倒:洗面台の高さ、足元の濡れ、手すり、椅子
むせ・誤嚥:嚥下に不安がある方は、言語聴覚士や医師に確認
血圧・疲労:立位が長いと、ふらつくことがあります
髭剃り:電気シェーバーが安全です。出血傾向のある方は事前確認
術後・疾患の制限:医師の指示が優先です
おまけ:洗面動作チェックシート(PDF)
動作ごとに、自立・見守り・介助を記録できます。
まとめ
5年前は「聞く時間」、今は「身だしなみの時間」でした。形は違っても、軸は同じです。その人の「いつもの暮らし」を、一緒に取り戻すこと。