
シロクマ文芸部 お題:待つ時間
待つ時間は「ながら行為」禁止。
幾度となく交わされた議論の末、そう結論付けられようとしていた。
伸一は待つ時間が下手だった。
病院で診察を待ちながらSNSでリプ合戦をする。
名前を呼ばれたことに気付かない。
待ち合わせで友達を待ちながら店内を回る。
友達を忘れる。
カップ麺を待ちながらテレビを観る。
ふやける。
彼女からの電話を待ちながら本を読む。
寝る。
伸一は企業面接に向かう電車の中で、数々の失敗を思い出し脳内会議を繰り広げていた。
「待つ時間は素晴らしい。これから起こる出来事に想いを馳せ、待つ行為自体に意味がある」
博識の青年風の人格が言った。
「待つ時間が長いほど、出てくる料理が美味しくなるの。スパイスみたいなものよ」
ギャルとは少し違う、スレンダー美女風の人格が言った。
「待つ時間の本質を捉えよ。待つ側があれば、それは待たせている側があるという事だ」
そういうことを語っちゃう老人風の人格が言った。
「待つ時間ってホントにあるのかな?時間という概念について考えてみよう」
ぐるぐる眼鏡をかけたエセ哲学者風の人格が言ったが、これは皆スルーした。
「つまりは、こうか。スキマ時間を生かしたマルチタスクは一見効率的に見えるが、結局のところ生産性を下げる。ならば効率的行動の工夫よりも、今目の前にあるものに意識を全力で傾ける。待つ時間を楽しみながら、な」
主人格がにやりとまとめた。
「マスターに同意」
全人格が賛同した。
1人の人格を除いて。
「ねえおじさん。この脳内会議ってさあ、ながら行為にならないのかな。だってホラ。駅過ぎちゃったよ。降りなくて良かったの?」
小学生くらいの、名探偵風の人格が言った。
「あ」
主人格を含む全人格の目が点になった。
「バーロー」
名探偵風の人格が呆れ顔でキメ台詞を吐いた。