
日本の魚は新鮮じゃない?中国のスーパーで気づいた、国境を越える「新鮮」の違い
以前、中国の方からこんなことを言われました。
「日本の魚は新鮮じゃないよね」
それを聞いた瞬間、正直「はぁ!?」と思ってしまいました。だって、日本は刺身やお寿司など、魚を「生」で食べる文化の国です。スーパーに並んでいる魚だって、生食できる基準をクリアしているのだから、新鮮でないはずがない。
アメリカや中国での生活経験を踏まえても、私は海外では(特に生食文化がほぼない中国では)できれば生食は避けたいと思っています。逆に日本では、生魚もレア焼きのお肉も、生水すら気にせず飲食しています。
そんな「生食大国」の日本に対して「新鮮ではない」とは、聞き捨てならない言葉でした。
しかし、現地の生活に馴染んでいくうちに、その言葉の「真意」が分かってきました。


写真は、私が住んでいる街の普通のスーパーマーケット(日本でいうイオンのような身近な店舗)の鮮魚売り場です。漁港に近いわけでも、鮮魚専門店でもありません。
それなのに、カニ、エビ、ザリガニ、貝、そして様々な種類の魚が、すべて「生きた状態(活魚)」で水槽に入れられて売られています。
お客さんは備え付けの網を使い、自分で水槽からピチピチと跳ねる魚をすくい上げます。ちなみに、水槽で死んでしまった魚やエビは格安で叩き売りされ、それでも売れ残れば廃棄処分になってしまうそうです。
ここで、冒頭の「日本の魚は新鮮ではない」という言葉に戻ります。
確かに、日本の一般的なスーパーでは、魚が泳いでいる状態で売られていることは稀です。プロがバックヤードで血抜きなどの処理をし、切り身やパック詰めの状態で店頭に並んでいます。
中国の人々にとっての「新鮮」とは、「今、目の前で元気に動いていること」なのだと思います。加熱直前まで生きていることが、食品の安全と鮮度を担保する絶対の基準。だからこそ、日本のきれいにパック詰めされた切り身を見ると「もう死んでいるから新鮮じゃない」という感想になるのだと思います。
一方で日本の「新鮮」は、水揚げ直後にプロが活け締め等を行い、「細胞の劣化を防いだ状態」だと思います。ストレスをかけて水槽で泳がせ続けるより、すぐに処理をして適切な管理する方が旨味が落ちないという、鮮度保持の考え方ではないかと思います。
住む場所が変われば、「新鮮」という言葉の定義すら根底から変わってしまう。これは本当に面白い発見でした。
この「生きたまま」へのこだわりの背景には、中国特有の地理や食文化も大きく影響していると感じます。
長江などの大河が流れ、古くから運河が発達してきたこの国では、海の魚よりも「川魚(淡水魚)」の料理が主流です。切り込みを入れて丸ごと揚げ、甘酢あんをかけた名物料理「松鼠桂魚(ケツギョの唐揚げ)」などは有名ですよね。
川魚は、死んでから時間が経つと特有の泥臭さが出やすいため、海の魚以上に「調理の直前まで生かしておく」ことが美味しく食べるための必須条件だったのでしょう。
「同じ言葉を使っているのに、頭の中にある大前提が全く違う」
スーパーの水槽の前、そんな異文化コミュニケーションの面白さと奥深さを実感しました。