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”ニュースの蜜と毒”文豪をスタバのカップにする若者たち――TikTokで踊るドストエフスキーの亡霊

    180年前のロシアの絶望を、カラフルな表紙で消費する承認欲求の夜。


    文豪をスタバのカップにする若者たち――TikTokで踊るドストエフスキーの亡霊



    デジタル消費の古典「AISASの法則」で完全解剖。中身も読まずに「孤独な私」を演出する、Z世代のペラペラな文学ごっこ



    コラム本文:


    「Z世代がドストエフスキーの『白夜』に熱狂」「孤独な夢想家に共感」――。

    活字離れと嘆かれていた現代の若者が、180年前のロシア文学を貪り読んでいるという美談をネットメディアが嬉々として垂れ流している。

    だが、額面通りに受け取ってはいけない。シベリア流刑と貧困の底で人間の醜悪さをえぐり続けたあのドストエフスキーが、黄泉の国で泡を吹いて卒倒しそうなこの茶番劇を、マーケティングの定番フレームワーク「AISASの法則(注意・関心・検索・行動・共有)」でサルでもわかるように解剖してやろう。


    【Attention(注意:カラフルな表紙で釣る)】

    そもそも、なぜ動画中毒の若者が重苦しいロシア文学に目を留めたのか。記事の答えは実に身も蓋もない。「Kindleよりも素敵な表紙のほうが注目を集める」「カップルがキスするポップアートの表紙」だとさ。

    文学の深遠な精神性などどこ吹く風。彼らが飛びついたのは、19世紀の文学ではなく、現代のデザイナーがこしらえた「映えるパッケージ」だ。ドストエフスキーの名著が、スタバの期間限定フラペチーノの可愛いカップと全く同じ理由で画面に流れてきただけの話である。


    【Interest(関心:「孤独でおしゃれな私」という甘い蜜)】

    次に若者は、主人公の「孤独な夢想家」という設定に食いつく。

    現実世界でうまく立ち回れず、部屋の片隅でウジウジしている陰鬱な男の独白を、「これって私のことじゃん! エモい!」と都合よく変換するのだ。過酷な現実社会に立ち向かう覚悟もないまま、スマホを握りしめて布団にくるまっている自分の怠惰を、「ドストエフスキーの主人公と同じ高尚な孤独」だと錯覚できるのだから、これほど都合のいい精神安定剤はない。


    【Search & Action(検索と行動:読むためではなく飾るためにポチる)】

    そしてネット書店で紙の本をポチる。電子書籍ではダメだ。なぜなら、スマホの画面に文字を表示させたところで、他人に「私、古典文学を読んでます」と見せびらかすことができないからだ。

    届いた本の重みを感じながら彼らがするのは、精読ではない。ベッドシーツの上に本を置き、隣にマグカップと観葉植物を添えて、いかに知的なアングルで撮影するかという画角の調整だ。十中八九、序盤の長々としたロシア人の独白に飽きて、十数ページで本を閉じている。


    【Share(共有:承認欲求のバズを回収する)】

    トドメは「BookTok」への動画投稿だ。本を片手にアンニュイな表情を作り、動画の尺はたったの数十秒。世界中の見知らぬ他人に「孤独な私」「古典を愛する知的な私」をアピールし、ハートマークの「いいね!」を貪り食う。

    孤独に共感したはずの人間が、群衆からの承認を求めて猛烈にアピールするのだから、これ以上のブラックジョークはない。本当の孤独とは、誰にも見られない暗闇で一人静かに耐え忍ぶものだ。全世界に向けて「私って孤独でしょ?」とスマホ越しに叫ぶ行為を、世間ではただの「構ってちゃん」と呼ぶ。


    記事では『罪と罰』の売上も伸びていると呑気に喜んでいるが、斧で金貸しの老婆を叩き割る泥沼の心理劇に耐えられるZ世代が何人いるというのか。最初の数ページで挫折し、部屋の片隅で埃をかぶるのがオチだ。

    180年の時を超えて、ロシアの文豪が若者たちの自撮り用小道具として消費される時代。天国のドストエフスキーがもしこの光景を見たら、きっと煙草を深く吸い込み、冷たい溜息とともにこう吐き捨てるだろう。「これっぽっちの承認欲求のために、俺の絶望を安売りするな」と。


    〈了〉


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