
録音をスタジオから部屋へ。漫画でたどるTASCAMの歴史










TASCAM(タスカム)の歴史はかなり面白くて、単なる「業務用レコーダーのメーカー」というより、録音機材の歴史そのものを何度か変えてきたブランドです。特に「普通のミュージシャンが自宅で多重録音する」という文化を広めた功績が大きいです。
まず、TEACとTASCAMは何が違う?
母体は日本の**TEAC(ティアック)**です。TEACのルーツは1953年に谷勝馬・谷鞆馬兄弟が設立した東京テレビ音響にあり、1950〜60年代にはオープンリール式テープレコーダーで成長しました。現在も会社としては「ティアック株式会社」で、TASCAMはそのプロフェッショナル音響機器ブランドという位置づけです。(TEAC)
TASCAMにつながる動きが始まったのは1960年代末。TEAC内部で、谷兄弟と技術者の阿部氏らが、TEACの録音技術を**ミュージシャンや録音スタジオ向けに応用する研究グループ「TASC」**を立ち上げました。そして1971年、米国で販売・市場調査を行う組織としてTASCAMが設立されます。1974年にはTEAC Corp. of Americaに統合され、以降「TASCAM」がTEACの音楽制作・プロ録音機器の正式なブランド名になりました。(TEAC)
大きな流れを追うと、こんな感じです。
1953年:TEACのルーツ誕生
日本で磁気テープ録音技術を育て、オープンリールデッキメーカーとして成長します。(TEAC)1971年:TASCAM誕生
米国市場を中心にプロ・ミュージシャン向け録音機器を展開する組織としてスタートします。(TEAC)1970年代:オープンリールMTR時代
代表例が1/2インチテープを使う8トラックレコーダー「80-8」。1977年公開の『スター・ウォーズ』第1作では、R2-D2やC-3POの音声制作にも80-8が使われました。(TEAC)1979年:Portastudio 144登場
これがTASCAM史最大級の転換点です。一般的なコンパクトカセットを使って4トラック多重録音できる「144」を発売。TEACはこれを、標準カセットを使用した世界初の4トラックMTRとしています。(Tascam)1980年代:宅録文化が爆発
Portastudioシリーズが発展し、「スタジオを借りなくても、自宅でギター→歌→コーラス……と重ね録りできる」環境が広がります。ブルース・スプリングスティーンが1982年のアルバム『Nebraska』の素材をPortastudio 144で自宅録音したのは有名な例です。(TEAC)1990年代:デジタル録音へ
TASCAMはHi8ビデオカセットを記録媒体に使う8トラックデジタルMTR「DA-88」を展開。複数台を同期して大規模なデジタル録音システムを安価に構築でき、放送・映像・音楽制作の現場で普及しました。1995年にはDA-88が技術面でエミー賞を受賞しています。(TEAC)2000年:2度目のエミー賞
MMR-8/MMP-16マルチトラックシステムでもエミー賞を受賞。TASCAMは家庭向けだけでなく、放送局や映画・テレビのプロダクションでも強いブランドになりました。(TEAC)2000年代〜現在:PC・SD・ネット時代へ
Digital Portastudio、USBオーディオインターフェース、ハンディレコーダー、デジタルミキサーなどへ領域を拡大。現在もPortastudio系のDPシリーズ、Modelシリーズ、Portacapture、業務用マルチトラックレコーダーなど、「録る」ことを中心とした製品群を展開しています。(Tascam)
特にすごかったのが「Portastudio」
今だとMacやiPhoneを開いてDAWで何十トラックも録れるのでピンと来にくいですが、1970年代の本格的な多重録音は基本的に高価なMTR+ミキサー+スタジオが必要でした。
そこへ1979年の「144」が、
カセットテープ+ミキサー+4トラックレコーダー
を一台にまとめて持ってきたわけです。(Tascam)
つまり、現代で言えば「巨大な業務用映像編集室でしかできなかったことを、突然ノートPC一台でできるようにした」くらいのインパクトです。
ここから「Bedroom Recording」「Home Studio」という文化が一気に現実的になりました。だからTASCAMは、宅録の祖先の一社と考えるとかなり分かりやすいです。
そしてTASCAMらしさ
歴史を通して面白いのは、TASCAMが一貫して
「最高級スタジオだけの技術を、もっと小さく・安く・扱いやすくする」
方向に強かったことです。
オープンリールの80-8 → カセットのPortastudio → デジタルのDA-88 → Digital Portastudio → SDカード録音 → USB/DAW → 32-bit floatポータブル録音、と、記録媒体は全部変わっているのに「手軽にちゃんと録る」という思想はかなり一貫しています。 現在もTASCAMはTEACのプロ音響機器ブランドとして続いています。(ティアックストア)
ちなみに、TASCAM史で個人的に一番ヤバいのは1979年の144です。今の「家で曲を完成させる」という当たり前につながる一本の線をたどると、かなりの確率でここにぶつかります。