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約束の時計店

    駅前に、小さな時計店がある。


    前を通るたびに気になるのに、一度も入ったことがない。

    「600」という数字から思い浮かぶもの。

    そんな問いを見かけて、しばらく考えてしまった。

    私が思い浮かべたのは、600秒。

    たった10分だ。

    でも、その10分を刻んでいるのが時計なんだと思ったら、不思議とあの時計店のことが頭に浮かんだ。

    時計を買うことが、ほとんどなくなったからだ。

    時間はスマホが教えてくれる。

    目覚ましも、待ち合わせ場所までの道順も。

    便利というのは、ときどき誰かの仕事を静かに奪っていく。

    そんなことを考えながら店の前を歩いていたら、「約束」という言葉がふっと浮かんだ。

    時計は時間を教える道具だけれど、本当は約束を守るための道具だったんじゃないか、と。

    子どもの頃は、「五時までに帰るんだよ」と言われた。

    友達とは「三時に公園ね」と約束した。

    大人になると、約束はもっと増える。


    会議の時間。 納期。 予約。


    でも、一番後回しになる約束は、自分との約束なのかもしれない。

    「そのうち始めよう。」

    「落ち着いたら会いに行こう。」

    「パンツはどうしよう」

    「今度こそ運動しよう。」

    どれも悪気はない。

    ただ、今日じゃなかっただけ。


    そんな「今日じゃなかった」が積み重なると、一年なんて、あっという間で驚く。


    人生は、思ったより予定どおりには進まない。

    むしろ、予定どおりだった日のほうが少ない気がする。

    そう考えると、私たちは案外たくましい。

    ……いや、「行き当たりばったり」と言ったほうが正確かもしれない。

    それでも、本当に大事な約束だけは、心のどこかで止まった時計みたいに残っている。

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    会えなかった人。

    言えなかった「ありがとう」。

    伝えそびれた「ごめん」。


    秒針は止まっていても、その時計は捨てられない。

    まだ動いてほしいと、どこかで願っているからだ。

    時計店の前を通るたびに思う。

    時計は、遅れた時間を取り戻してくれるわけじゃない。

    でも、「ここからまた動きますよ」と静かに教えてくれることはできる。

    それで十分なのかもしれない。

    人生も、きっと同じだ。

    守れなかった約束はいくつもある。


    それでも今日、新しい約束をひとつ始めることはできる。


    時計の針は、昨日には戻らない。

    その潔さを、少しだけ見習いたいと思った。



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    #600note祭り
    #たかっちPパンツ祭り




     
     
    しがない会社員のおっさんです。 特別な才能はないけれど、今日も誰かの気持ちが少し軽くなるような言葉を書いています。 日常の気づきやエッセイ、創作を更新しています。 Amazonアソシエイト参加中

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