
【毎週ショートショートnote】【マッチョ華道】「華は裏切らないが、腰は裏切る」
公民館の縁側で、治徳爺さんが大きな松の枝を抱えていた。
「ほむ? 何をしておる?」
リバイアさんが覗き込むと、床にはススキや赤い実の枝、その横には袖のない白シャツを着た男たちが三人。全員、妙に肩幅が広い。
「華道じゃよ」
「ほぅ、華道とな。して、その肩は必要なのかの?」
男の一人が太い枝を持ち上げる。
「真が弱い。副も逃げとる。体をもう少し前へ」
池坊の稽古さながらに、わいわいと議論する男たちを見て、リバイアさんは首を傾げる。
「筋トレの話にしか聞こえんぞ?」
治徳爺さんは、曲がった大枝を指さした。
「華道の枝の話じゃ」
「なぜ漁師が華道なのじゃ?」
「海が荒れて船を出せん日は、これを担いで浜を歩く」
男たちは無言で枝を持ち上げ、肩に担いだ。
「やっぱり筋トレではないか」
「違う。華道の準備じゃ」
「どこがじゃ」
やがて巨大な枝が花器に収まった。
治徳爺さんは満足そうに眺め、少し痛そうに腰を押さえた。
「華は裏切らん。じゃが、腰は裏切る」
縁側を、冬の風がすっと抜けていった。
こちらの企画に参加してます!