
短編小説 : 「生まれた日」へ行こう | シロクマ文芸部
「『生まれた日』に行こうよ」
「いいね」
僕たちはそこへ向かって歩き出す。
平日のお昼どきだ。
歩き始めてすぐ、奇妙な光景に出くわした。 正確には光景ではなく「音」だった。すれ違う街の人たちが、みんな「生まれた日」の話をしているのだ。
散歩中の老夫婦はそれを「本当にあたたかい場所だった」と懐かしそうに目を細め、スーツを着たサラリーマンは「まさに奇跡のできたてだよ」と熱弁している。OL風の二人は「絶対に忘れられない時間よね」と微笑み合っていた。
なんだか街全体が、ソワソワして、浮き足立っているみたい。僕たちにも伝染してしまう。
「楽しみだね。きっと、noteのお題企画か何かかな?」
僕たちがそんな会話を交わしながら笑い合っているうちに、目的地へ到着した。
僕たちは「生まれた日」に着いたのだ。
どこか郷愁を誘うドアを開けると、外より少しだけあたたかい空気が流れ込んできた。 凛々しい女性スタッフが気持ちのいい笑顔で迎えてくれた。
「オステリア『生まれた日』へようこそ! 本日のランチは、蝦夷アワビと焦がしバジルのペペロンチーノです」
「それ、二つください」
レストラン『生まれた日』のペペロンチーノは、ほっぺたが落ちるほど美味しかった。僕たちの胃袋が新しく生まれ変わった気さえする。