
彼岸花の心|無理に心をひらかなくてもいい
連絡の通知が鳴ると、
胸の奥が一瞬だけキュッと縮こまる。
画面を開けば、他愛のないお誘いや、気遣いのこもったメッセージ。
悪い気はしないし、相手に悪意がないことも分かっている。
だからこそ、胸の奥が一瞬だけキュッと縮こまる。
「行けたら、行きますね」
角の立たない言葉を選び、丁寧な絵文字をひとつ添えて送信ボタンを押す。
相手を嫌っているわけではない。
失礼な態度を取りたいわけでもない。
ただ、自分の心の中に誰かがすっと足を踏み入れようとしてくると、どうしても息が苦しくなってしまう。
にこやかに接しながら、絶対にそれ以上は踏み込ませない、丁寧すぎる距離。
気づけばいつも、自分と相手のあいだに、静かな隙間ができていた。
一人になって部屋の鍵をかけた瞬間、深い溜め息がこぼれ落ちる。
もっと素直になれたらいいのに。
もっと気さくに、自分の内側を見せられたらいいのに。
春や夏のように、誰もが明るい光の中で当たり前のように繋がっている季節。
その眩しさに馴染めないまま、自分だけが浮いているような冷たさを抱え、ずっと自分の頑なさを責めてきた。
けれど。
秋の風が少しずつ冷たさを増し、空が高く澄み渡っていく。
帰り道、道端の静かな影で、燃えるような赤い花びらが揺れていた。
葉を一枚も持たず、ただ一本の茎をまっすぐに伸ばして立つ彼岸花。
その足元には、何もない。
花が咲いている間、葉は姿を見せない。
やがて花が枯れ果てたあと、誰もいなくなった静かな冬の土の中から、青々とした葉がひっそりと萌え出てくる。
花と葉は、出会うことがない。
けれど、それは分断でも、不完全さでもなかった。
誰にも見られない冬の冷たさのなかで、ひそかに光を蓄え続けた時間があったからこそ、いま、この花は誰の助けも借りずに立っている。
そうか。
心を簡単に明かさなかったことも、人とのあいだに作ってきたあの静かな隙間も。
誰かを遠ざけるためなんかじゃなく、すり減ってしまいそうだった大切な自分の気持ちを、ただ静かに包んで守っていただけだったのかもしれない。
無理に心をひらかなくてもいい。
まわりの咲き方を真似しなくてもいい。
ただ、冷たい風のなかで、背筋を少しだけ伸ばしてみる。
深く吸い込んだ秋の空気が、胸の奥まで届いていく。
靴底が踏みしめる土の感触を確かめながら、また、いつもの帰り道を歩き出す。
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hanatoshiki