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【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!2話

    1話はこちら

    ユキ達のイトコ、つまりボンの甥っ子達が逃げていく後ろ姿を見ながら、ボンはため息をつく。

    こんな世界じゃ、子ども……いや大人の心も荒れちまうよね。

    ボンはノシノシと我が子4人をぶら下げながら歩く。その逞しい様子から、彼女の悲しみを推察するのは難しい。女偉丈夫と評されるボンの逞しい外見が、彼女の心の傷をすっぽりと覆っているからだ。

    アグ……どうして帰ってこないんだよ……

    歩きながら、ボンはアグと初めて出会った時のことを思い出していた。


    「ボン!顔を上げるな!」
    「……!」

    父親がボンの後頭部を思い切り押した。不満を言いたいのを我慢し、ボンは顔を下に向け直す。美味いもんを食わせてやる、お姫さんみたいな服を着せてやろう。父親の甘言に乗せられ来てみれば、そこは見合いの席だった。

    オ・ヤ・ジィィィ……

    確かに美味そうな料理は目の前にある。身に着けた服は、普段のものとはケタ違いに美しい。しかし、料理は並べられているだけで父親から「食うな」と無言の圧力がかかっている。洋服も自分に全く似合わないものだった。なぜ似合わないと思うのか。それは、仲人が必死で笑いをこらえているのがボンに伝わってくるからだ。

    生れた時が、あまりに丸々としていたため、父親が「こりゃお盆みたいだな」と発言したことからつけられたボンという名。子ども時代はさんざん「お盆お盆」とからかわれた。ただ、ボンをからかった子どもは全て、ボンの足元にひれ伏すことになる。ボンはただ丸いだけでなく腕っぷしも強かったのだ。体力がありあまるボンは、あっという間に子ども世界の頂点に立っていた。

    しかし、しかしだ。あの異様な戦争が起こる前、世の中は「男尊女卑」と「年長者には従え」がまかり通る時代だった。子どもの世界では頂点に立てても、大人には口答えができない。自分の気持ちを正直に伝えたくても、大人に、特に父親には、子どもで「女」のボンは逆らえないのだ。

    だから、似合わない衣装を着せられ、ボンは頭を下げた状態で、この席に大人しく座っていた。相手が来る前からも、そして部屋に入ってからも顔を上げることなく大人しくしていなければならい。

    チクショウ……オヤジめ。

    仲人が「健康的なお嬢さんで」と相手の親に紹介しながら肩を震わせているのを感じ、ボンは頭を下げた状態のまま、再び暗い気持ちになった。

    どうせ私を見て相手も笑っているに違いない!

    そう考えるとムカムカを抑えられないのがボンの気性。相手を見てやろうと顔を上げた瞬間、父親の手が容赦なくボンの後頭部をズシっと押す。

    父親の鬼の形相が見えそうだが、横目で確認すると見たことがないほどにこやかな顔を仲人に向けていた。仲人の手前、思い切り娘の頭をはたくことができないのだ。

    なんだよ……オヤジ……

    フンと鼻息を漏らすと、後頭部を抑える父親の手に力が入る。

    ウウウ……オヤジ、痛いって。

    ここまでして見ようとした相手の顔だったが、結局見ることができなかった。窓を後ろに座っていたため、顔が暗くなっていたのだ。しかし、後頭部が窓から差し込む陽の光で輝いているのだけは確認できた。

    若ハゲか。
    お盆のように丸い自分と若ハゲ
    ちょうどいいってことかい?

    お見合いは、男性側からしか断れないシステムだ。そのため、ボンがどう思おうと、相手が断らない限り結婚は成立する。いくら力が強く男勝りなボンでも、多少の乙女心はあった。それなりに結婚に夢見ていた時期もある。

    現実には親が結婚を決めると理解はしているが、目の前にいる相手が若ハゲだとわかると思わず、深いため息が出てしまった。今度のため息は父親に気づかれなかったようで、仲人や相手の親と上機嫌で話している。

    あ~あ、早く終わらないかな。

    そう思っているボンの目の端に相手の膝が映った。ん?なんか少し揺れている?

    お盆みたいだと笑ってるのか!

    思わずカッとなって顔を上げた途端、再び父親に後頭部を押さえつけられた。二度目ということもあり、今回の父親の力の入れようはすごい。しかし、後頭部への圧などどこへやら。頭を下げたボンの顔は赤い。窓から差し込む陽の光の位置が微妙にズレ、相手の顔が見えたからだ。

    相手の顔も真っ赤だった。それに、ボンを見つめる目があまりに優しく、どぎまぎする気持ちを抑えられない。その目は、夢見た相手の目に似ているような気がした。そして、後頭部はハゲていなかった。心の中でボンは「よっしゃー!」とガッツポーズ!

    顔合わせが終わると、2人きりの時間が設けられる。気まずさに押しつぶされそうになりながら、ボンがチラリと視線を向けると、相手は嬉しそうに笑った。

    「綺麗な人で良かった」
    「今まで一度も言われたことない!」
    「それは幸いだった」

    先に誰かに見つけられなくて良かったと笑う見合い相手。人生で初めて味わう体験にボンは戸惑った。

    それが、アグとボンの最初の出会い。
    アグ21歳、ボン19歳。
    その年の暮れ、アグとボンは結婚した。
    翌年には長男のトシが生まれる。

    3話に続く

     
     
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