
待つ時間
[待つ時間 初日]
少女は鬱蒼とした緑の中に入る。
朽ちた香炉を土から掘り起こす。
葡萄酒と穀物を捧げ、香炉から白煙をあげる。
初々しい乳白の手は冷たい。
落水で足を洗い、清水をふくむ。
[三年目]
女は鬱蒼とした緑の中に入る。
朽ちた香炉には密にシジミチョウが憩う。
葡萄酒と穀物を捧げ、香炉から白煙をあげる。
揃えた白く長い指は柑橘の香り。
落水で足を洗い、清水をふくむ。
[九年目]
昏き女は鬱蒼とした緑の中に入る。
朽ちた香炉の影にムカデが潜む。
葡萄酒と穀物を捧げ、香炉から白煙をあげる。
哀れな深い皺と浮き出た青い脈。
落水で足を洗い、清水をふくむ。
[十五年目]
老婆は鬱蒼とした緑の中に入る。
朽ちた香炉の奥に白蛇が睨む。
葡萄酒と穀物を捧げ、香炉から白煙をあげる。
褪せる指が震える。
落水で足を洗い、清水をふくむ。
[四十五年目]
亡者は鬱蒼とした緑の中にいる。
光芒の香炉は暗闇に輝く。
葡萄酒はなく穀物もない。
しかし、玲瓏であり、新しい者を待つ。
水簾は清流であり穢れを落とす。
END
こちらの作品は
#シロクマ文芸部の企画に
#待つ時間
参加させていただきました。
―最後まで読んでいただき、ありがとうございました―